名  称 PT境界 ぴーてぃーきょうかい
  場 所 本巣市根尾下大須 和井谷  形成時期 ペルム紀/三畳紀
   概 要
   古生代の最後にあたるペルム紀(Permian)と中生代の最初にあたる三畳紀(Triassic)の境界(約2億5,200万年前)を指し、それぞれの時代区分名の英語表記の頭文字をとって呼んでいる。この境界において地球史上で最大規模の生物の大量絶滅が起きており、多岐にわたる海棲生物種の約95%が絶滅したとされていることで注目されている。大量絶滅の原因はよくわかっていないとされているが、約1,000万年にもわたって海洋酸素が大規模に欠乏したことで起こったとする説、隕石の落下によるとする説、地球内部のマントルの大きな動きにより引き起こされた極めて激しい火山活動が原因であるとする説などが考えられており、具体的には古生代に繁栄した三葉虫フズリナなどがペルム紀末に絶滅し、アンモナイト類や腕足類などもその数を大きく減らした。日本においては、本巣市根尾の東部にあたる舟伏山北部地域の林道沿いで美濃帯堆積岩類のペルム紀後期のチャート層の上に重なる粘土岩層がPT境界を示す地層とされる論文が2010年に公表された。ちなみに、日本ラインに分布するチャート層は酸素欠乏時期が終わり、酸素が徐々に回復していく時期に堆積したものとされている。
 
本巣市根尾下大須の林道沿いにおいてPT境界を示す露出地点(赤枠の範囲が下の写真の範囲)
(撮影:西谷 徹)
 
  ジオ点描
   古生代、中生代、新生代という地質年代区分は生物の進化を背景にその生存期間に基づいて区分されたものであり、化石生物が出現する順序(時間)の相対的な区分を意味する。古生代と中生代の境界も最初は化石の証拠から生物が誕生して絶滅するまでの生存期間で区分されたものである。それが生物の大量絶滅という化石生物の大変換が起きた時期そのものにあたっている。
PT境界付近の拡大写真(赤線より左側がペルム紀後期のチャート層で、右側が三畳紀最前期の黒色粘土岩層とチャート層)
(撮影:西谷 徹)
 
  文 献 Sano,H., Kuwahara,K., Yao,A. & Agematsu,S.(2010) Panthalassan seamount-associated Permian-Trassic boundary siliceous rocks, Mino terrane, central Japan. Paleontological Research, vol.14,pp.293-314.  
日本ライン
美濃加茂市から各務原市へかけての全長約13kmにわたって形成された木曽川沿いの峡谷で、周辺の景観がヨーロッパ中部を流れるライン川に似ているとされることで命名されている。峡谷をつくる岩石は美濃帯堆積岩類のおもにチャートと砂岩であり、とりわけチャートが河床の奇岩や周辺の景観を作り出している。1970年代までは美濃帯堆積岩類の形成時期は石灰岩に含まれるフズリナ化石を中心に考えられてきたが、1980年代前半までにチャートに含まれる放散虫化石がかなり細かい単位で時代を決定できる手段として使えることが明らかにされ、形成時期を大きく書き換えるほど重要な役割を演じる化石となった。それによる成果は“放散虫革命”と呼ばれ、この地域はその研究の中心舞台となった。
三葉虫
古生代の初期(カンブリア紀)から終期(ペルム紀)に生息し、古生代を代表する無脊椎動物であり、中生代を通じて生息したアンモナイトと双璧をなす有名な示準化石である。節足動物に属し、多くは3~5cmの体長で、体は扁平で多くの体節からなり、縦方向にも頭・胸・尾の3つに区分されるが、胴体部分が中央の盛り上がった部分「中葉あるいは軸部」と左右の薄い部分「側葉あるいは肋部」の3つに分かれており、これが三葉虫の語源となっている。有名な化石ではあるが、日本ではそれほど頻繁に産出するわけではなく、岐阜県地域では飛騨外縁帯構成岩類の一重ヶ根層(オルドビス紀~シルル紀)や福地層(デボン紀)などから発見されている。
フズリナ
古生代の石炭紀~ペルム紀にいた石灰質の殻をもつ有孔虫であり、温暖な地域の海底付近に棲息し、当時のサンゴ礁と考えられている石灰岩中に多量に含まれることで知られる。単細胞の原生動物であるが、進化の過程で複雑な殻の形態をもつようになり、それが示準化石として重要な役割を演じている。岐阜県地域では美濃帯堆積岩類の石灰岩中に頻繁に含まれ、なかでも大垣市の金生山に分布する赤坂石灰岩に含まれるフズリナは、ギュンベルにより1874(明7)年に日本産化石に関する最初の論文として報告されたものであり、そのためにここが「日本の古生物学発祥地」とされている。
アンモナイト
古生代から中生代白亜紀末まで海洋に広く分布し繁栄した生物であり、岐阜県地域では手取層群から産出するものが知られているが、繁栄時期からすれば美濃帯堆積岩類の中から産出してもおかしくない。ところがその産出例はわめて少なく、1例の報告しかない。郡上市大和町の長良川河床に露出している砂岩泥岩互層の細粒砂岩部から発見されたもので、ジュラ紀中期を示すKeppleriteと呼ばれるアンモナイトであり、北方系の要素があるとされている。
美濃帯堆積岩類
美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。
チャート
一般には硬く緻密な微粒珪質堆積岩の総称であり、美濃帯堆積岩類を構成する主要な岩石の一つとして特徴的に産する。厚く層状に分布することが多く、これを層状チャートと呼ぶ。一部に古生代ペルム紀のものも含まれるが、ほとんどは中生代三畳紀~ジュラ紀前期に海底に堆積した放散虫などのプランクトンからなる遠洋性の堆積物で、陸源砕屑物をまったく含まない。
地質年代