化石名 イノセラムス
  地層名 手取層群  対象時代 ジュラ紀~白亜紀
   概 要
   中生代ジュラ紀~白亜紀に繁栄し、白亜紀後期に絶滅した海生の二枚貝である。殻の表面に同心円状の肋(ろく)が明瞭に見られることで知られている。また、殻の外層に方解石からなるプリズム層が顕著に形成されて真珠光沢のある厚い殻をもつ。殻の形態、ふくらみ、大きさなどが多様であり、短時間(数百万年単位)で進化して形態を大きく変えていき、とくに繁栄した白亜紀において時代決定にかなり有効な示準化石となっている。岐阜県内では手取層群の石徹白(いとしろ)亜層群相当層から産出している。
 
飛騨市古川町下野における手取層群から産出したイノセラムス
(岐阜県博物館所蔵、撮影:棚瀬充史)
 
  ジオ点描
   化石が生息した時期に該当する地層であれば、その化石はどこからでも産出してよさそうであり、有名な化石であればどんどん産出してほしいと思いたくなる。ところが実際に化石として地層中に残れるものは生息当時の生物のきわめて限られた一部にあたる“ラッキーボーイ”であり、それだけ繁栄して個体数が多かったことも意味している。1個の化石はかなりの個数で生息していたことの裏付けとなる。
高山市荘川町の松山谷において手取層群から産出したイノセラムス
(岐阜県博物館所蔵,撮影:熊澤 忍)
  文 献  
示準化石
地質時代を特定できる化石のことで、標準化石ともいう。こうした化石となる条件には、個体数が多いこと、地理的な分布が広いこと、特定の形態をもった状態での生存期間が短いことなどが挙げられ、一般には同一系統内では分類単位が大きいほど特定できる時間の幅が長くなる。こうした化石が含まれることで、離れた地域の間で地層の対比と時間の同定が可能となり、「地層同定の法則」が成り立つ。
石徹白亜層群相当層
手取層群を形成時期で区分した場合の中部層にあたり、中生代白亜紀前期の前半にあたる時期に形成された地層群である。海成層と陸成層が繰り返されながら、やがて陸成層が卓越していくような堆積環境の変遷がみられる。岐阜県内においては、高山市荘川町の尾神郷(おがみごう)川下流地域および御手洗川地域や白川村の白山(標高2702m)東麓地域で比較的広く分布し、かつては九頭竜亜層群とされ、岐阜県の天然記念物「牛丸ジュラ紀化石」を含む牛丸層やアンモナイト化石を産する海成層(御手洗層など)などがここに分布する。また、飛騨市河合町・古川町から高山市国府町・上宝(かみたから)町へかけての地域にも帯状に分布し、さらには高山市奥飛騨温泉郷栃尾地域にも分布する。



地質年代
手取層群
手取層群は、福井県東部から石川県南東部、岐阜県北部、富山県南部へかけての地域に分かれて分布し、中生代のジュラ紀前期から白亜紀前期にかけての時代に形成された海成~陸成の地層である。おもに砂岩・泥岩・礫岩などの砕屑岩類からなり、恐竜などの爬虫類化石を産出することで知られる。大きくみると浅海成層から陸成層へと移り変わっていることで、これまでは3つの亜層群(九頭竜・石徹白(いとしろ)・赤岩亜層群)に区分されていた。しかし、これら3亜層群の区分に関しては、形成時代の見直しが化石(特にアンモナイト化石)に基づいて進められてきたことで、堆積環境の変遷も含めていくつかの見解が示されており、それにともなっていくつかの層序区分の考えが示されてきた。ここではこれまでに一般的に用いられてきた3亜層群の名称をそのまま用い、形成時期に重点をおいた区分として、九頭竜・石徹白亜層群の境界をほぼ中生代ジュラ紀と白亜紀の境界(約1億4,550万年前)、石徹白・赤岩亜層群の境界をほぼ白亜紀前期の約1億2,500万年前として表現する。ただし、分かれて分布する個々の地域すべてから時代決定に有効な化石が産出するわけではなく、年代測定の問題も含めて課題の残された地域もあるため、ここでは現段階での資料に基づいて区分し、時代不明の未区分層(Tu)として扱う地域もある。岐阜県地域において区分できる地域では、九頭竜亜層群は分布せず、石徹白・赤岩亜層群が分布し、それぞれ石徹白亜層群相当層、赤岩亜層群相当層として記述する。