化石名 パレオパラドキシア
  地層名 瑞浪層群
(土岐市泉町隠居山)
 対象時代 新第三紀中新世前期~中期
   概 要
   中新世前期から中期にかけて北太平洋地域の暖かい環境の海岸地帯に生息していた絶滅哺乳類である。分類上はデスモスチルスと同じ仲間の束柱目であり、その特徴である円柱を束ねたような形態の臼歯を持つが、それに比べると小型でやや原始的であり、エナメル質が薄く、その配置も異なっている。体長は1.5~2.0mほどで、現在のカバに似た姿で海浜を歩いたり水中に潜ったりしていたと考えられており、基本的に草食動物であったと推測されている。日本では瑞浪層群の明世累層から1950(昭25)年に幼獣の全身骨格が見つかっており、さらにごく最近(2022年)には背骨が腰から首までほぼ全ての部位がつながった成獣の骨格が見つかっている。1984年(昭59)年にほぼ完全な形で福島県で発見された梁川(やながわ)標本が有名である。ちなみに学名 Paleoparadoxia は“paleo(=古い)”+“paradox(=逆説、矛盾)”で「古代の不思議なもの」の意味に由来しており、最も謎に満ちた古生物のひとつとされ、世界の奇獣と評されている。
 
1950年に発見されたパレオパラドキシアの幼獣全身骨格の産状
(岐阜県博物館所蔵、撮影:棚瀬充史)
 
  ジオ点描
   当初はカバに似た骨格をもつ動物とされていたが、足の骨格に泳ぎに適応した対応が見られたり、腕ごと回転させないと手首をひねることができないため陸上を歩く際にはかなり苦労したはず、など得られた化石の詳細な検討からカバとは異なる生態の復元がなされるようになった。さらには共生している貝類化石などからの情報も含めて詳細な生活環境の復元がなされるようになっている。
岐阜県博物館に展示されている復元されたパレオパラドキシアの骨格標本
(岐阜県博物館所蔵、撮影:棚瀬充史)
 
  文 献  
デスモスチルス
中新世前期から中期にかけて北太平洋沿岸地域に生息し、海岸や浅海で暮らしていた哺乳類で、象牙質の芯をエナメル質が取り巻いた円柱がいくつも束になった独特の形状をしている頬歯に特徴がある。そのため、ギリシア語で「束ねられた(デスモス)柱(スティルス)」を意味している学名を与えられ、分類上も“束柱目”にされている。体長1.8mほどのカバに似た体形をもつと推定されている。当初は歯の化石だけがみつかったが、瑞浪層群の明世累層から頭骨化石が最初に発見され、後に樺太から全身骨格が発見されている。同じ束柱目に属するパレオパラドキシアよりも特殊化した種類とされている。
明世累層
瑞浪地域に分布する瑞浪層群のうち中部層を構成し、瑞浪地域の全域にわたり層厚200~250mで分布する海成層で、分布域の中心部と周縁部で岩相が大きく異なる。中心部では全体に凝灰質で、無層理の泥質細粒砂岩、シルト岩~細粒砂岩、軽石質凝灰岩と細粒凝灰岩~凝灰質泥岩の互層などが漸移的に積み重なり、周縁部では礫岩を含む砂岩、砂岩泥岩互層などからなる。大型哺乳類化石としてデスモスチルスやパレオパラドキシアが、周縁部の宿洞(しゅくぼら)相と呼ばれる砂岩層には大型有孔虫化石のミオジプシナがそれぞれ含まれることで知られ、全体に300種を超える貝類化石が産出する。



地質年代
瑞浪層群
新第三紀の中新世に西南日本の古瀬戸内海と呼ばれる海に堆積した地層群の一つで、岐阜県の中濃地方から東濃地方へかけての可児・瑞浪・岩村の3地域に分かれて分布する。可児地域では下位から蜂屋累層、中村累層、平牧累層に、瑞浪地域では同じく土岐夾炭累層、本郷累層、明世累層、生俵累層に、岩村地域では同じく阿木累層、遠山累層にそれぞれ区分されている。これらは、大きくみると淡水域から汽水域、海域へと堆積環境が変化していったが、設楽層群などの他地域に分布する地層群に比べると浅海性の傾向がみられる。