化石名 ビカリア
  地層名 瑞浪層群
(瑞浪市松ヶ瀬町土岐川河川敷)
 対象時代 新第三紀中新世
   概 要
   殻長10cmほどの円錐形の巻貝で、殻の表面には太いらせん状の螺肋(らろく:成長に伴ってできる盛り上がった横筋)や角状突起がある。マングローブの生い茂る熱帯~亜熱帯気候の汽水域に生息していたと考えられており、示相化石となる。貝殻の中が珪酸(メノウ)に満たされ、その貝殻がなくなって内部だけが残されたた化石(内型化石)を「月のおさがり」と呼んでいる。新生代第三紀の始新世から中新世にかけての地層から産出し、示準化石となる。岐阜県地域では瑞浪層群から産出する貝化石の代表としてよく知られている。瑞浪市化石博物館にはそのみごとな標本が数多く展示されている。ちなみに化石の名称はイギリスの軍人Nathaniel Vicaryに由来する。
 
土岐市下石町清水において瑞浪層群から産出したビカリア
(岐阜県博物館所蔵、撮影:棚瀬充史)
 
  ジオ点描
   「月のおさがり」とは“月のウサギの糞”という意味だそうだが、見た目のすがたをやんわりと遠回しに表現したところに奥ゆかしさが感じられる。即物的な見方しか心得のないものには“光り輝くソフトクリーム”という印象である。いずれにしてもジオの世界とはまったく結びつかないものであり、気持ちの上ではジオと結びつくニックネームを付けてあげたいところである。
瑞浪市明世町における瑞浪層群の明世累層から産出した「月のおさがり」(ビカリアの内型化石)
(撮影:木澤慶和)
 
  文 献 糸魚川淳二(1980)瑞浪地域の地質.瑞浪市化石博物館専報,1号,1-50頁.  
示相化石
すべての生物は環境に適応して生活していたはずであるから、すべての化石はその生息環境を示すが、それらの中で生息条件が限定されていること、現生種との関係から生息環境の推察が可能であること、現地性のものであることなどの条件を持ち、それが含まれる地層の堆積環境を明確に示す化石を指す。
示準化石
地質時代を特定できる化石のことで、標準化石ともいう。こうした化石となる条件には、個体数が多いこと、地理的な分布が広いこと、特定の形態をもった状態での生存期間が短いことなどが挙げられ、一般には同一系統内では分類単位が大きいほど特定できる時間の幅が長くなる。こうした化石が含まれることで、離れた地域の間で地層の対比と時間の同定が可能となり、「地層同定の法則」が成り立つ。
瑞浪市化石博物館
瑞浪市周辺に分布する瑞浪層群から産出した化石を中心に収蔵・展示・研究を行っている施設である。1971(昭46)年に始まった中央自動車道の建設工事にともなって瑞浪層群が大規模に掘削され、保存のよい貴重な化石が大量に産出したことで、それらを整理して展示する施設として設置された。収蔵・展示だけでなく、化石に関する優れた研究をすすめ、成果を公表している機関として貴重な役割を果たしている。


地質年代
瑞浪層群
新第三紀の中新世に西南日本の古瀬戸内海と呼ばれる海に堆積した地層群の一つで、岐阜県の中濃地方から東濃地方へかけての可児・瑞浪・岩村の3地域に分かれて分布する。可児地域では下位から蜂屋累層、中村累層、平牧累層に、瑞浪地域では同じく土岐夾炭累層、本郷累層、明世累層、生俵累層に、岩村地域では同じく阿木累層、遠山累層にそれぞれ区分されている。これらは、大きくみると淡水域から汽水域、海域へと堆積環境が変化していったが、設楽層群などの他地域に分布する地層群に比べると浅海性の傾向がみられる。