化石名 平牧動物化石群 ひらまきどうぶつかせきぐん
  地層名 瑞浪層群
(可児市周辺)
 対象時代 新第三紀中新世前期~中期
   概 要
   瑞浪層群の平牧累層から産出する日本の代表的な中新世前~中期の陸生の化石哺乳類群を指す名称である。日本で最古のゾウといわれるアネクテンスゾウ(ゴンフォテリウム)、ウマの祖先にあたる3本の指をもつヒラマキウマ(アンキテリウム)、ムカシバク、カニサイ(キロテリウム)、シカの仲間のミノジカ、現生のカバの祖先型とされるブラキオダスなどの大型動物のほか、小型動物化石としてリスの仲間も報告されている。これらはユーラシア大陸に生息していた動物群と深く関連していたと考えられており、これらとともに平牧累層からはブナクリ、クス、フウ、ヤマモモの仲間などの植物化石が産出し、暖帯性常緑広葉樹と暖温帯落葉樹を主体とする“台島型”と呼ばれる植物群で特徴づけられる。
 
御嵩町における瑞浪層群から産出したゴンフォテリウム(アネクテンスゾウ)の歯
(岐阜県博物館所蔵、撮影:棚瀬充史)
 
  ジオ点描
   陸生の平牧動物化石群に対して、ほぼ同時期かやや後の時代に当時の北太平洋地域の海岸地帯や浅海域に暖かい環境下で生息していた海生の動物化石群がおり、戸狩(とかり)動物群あるいは明世(あけよ)動物群と呼ばれている。その代表格が明世累層から産出するデスモスチルスパレオパラドキシアなどである。これらに比べて平牧動物化石群の方がなぜか身近な動物と感じてしまう。
可児市山崎における瑞浪層群平牧累層から産出したヒラマキウマ(アンキテリウム)の歯
(岐阜県博物館所蔵、撮影:棚瀬充史)
 
  文 献 奥村 潔・岡崎美彦・吉田新二・長谷川善和 (1977) 可児町産の哺乳動物化石.平牧の地層と化石,21–45,可児町教育委員会.  
瑞浪層群
新第三紀の中新世に西南日本の古瀬戸内海と呼ばれる海に堆積した地層群の一つで、岐阜県の中濃地方から東濃地方へかけての可児・瑞浪・岩村の3地域に分かれて分布する。可児地域では下位から蜂屋累層、中村累層、平牧累層に、瑞浪地域では同じく土岐夾炭累層、本郷累層、明世累層、生俵累層に、岩村地域では同じく阿木累層、遠山累層にそれぞれ区分されている。これらは、大きくみると淡水域から汽水域、海域へと堆積環境が変化していったが、設楽層群などの他地域に分布する地層群に比べると浅海性の傾向がみられる。
平牧累層
可児地域に分布する瑞浪層群のうち上部層を構成し、可児市から御嵩町へかけての地域に分布する。層厚は80m以上で、凝灰角礫岩や巨岩塊を含む凝灰岩などからなる下部層と凝灰質砂岩などからなる上部層に分けられている。ゴンフォテリウムというゾウやアンキテリウムという小型のウマなどの哺乳動物化石が産出したことで知られており、平牧動物化石群と呼ばれている。湖沼性の貝類化石や温暖性の植物化石が含まれている。
明世累層
瑞浪地域に分布する瑞浪層群のうち中部層を構成し、瑞浪地域の全域にわたり層厚200~250mで分布する海成層で、分布域の中心部と周縁部で岩相が大きく異なる。中心部では全体に凝灰質で、無層理の泥質細粒砂岩、シルト岩~細粒砂岩、軽石質凝灰岩と細粒凝灰岩~凝灰質泥岩の互層などが漸移的に積み重なり、周縁部では礫岩を含む砂岩、砂岩泥岩互層などからなる。大型哺乳類化石としてデスモスチルスやパレオパラドキシアが、周縁部の宿洞(しゅくぼら)相と呼ばれる砂岩層には大型有孔虫化石のミオジプシナがそれぞれ含まれることで知られ、全体に300種を超える貝類化石が産出する。
デスモスチルス
中新世前期から中期にかけて北太平洋沿岸地域に生息し、海岸や浅海で暮らしていた哺乳類で、象牙質の芯をエナメル質が取り巻いた円柱がいくつも束になった独特の形状をしている頬歯に特徴がある。そのため、ギリシア語で「束ねられた(デスモス)柱(スティルス)」を意味している学名を与えられ、分類上も“束柱目”にされている。体長1.8mほどのカバに似た体形をもつと推定されている。当初は歯の化石だけがみつかったが、瑞浪層群の明世累層から頭骨化石が最初に発見され、後に樺太から全身骨格が発見されている。同じ束柱目に属するパレオパラドキシアよりも特殊化した種類とされている。
パレオパラドキシア
中新世前期から中期にかけての時期に北太平洋地域の海岸地帯に生息していたいて束柱目の哺乳類で、デスモスチルスと同じ仲間の絶滅哺乳類である。束柱目の特徴である円柱を束ねた様な形態の臼歯を持つが、デスモスチルスに比べるとエナメル質が薄く、その配置も異なっている。日本では1984年(昭59)年にほぼ完全な形で福島県で発見された梁川標本が有名であり、岐阜県では瑞浪層群の明世累層から幼獣全身骨格が1950年に見つかっている。
地質年代
瑞浪層群
新第三紀の中新世に西南日本の古瀬戸内海と呼ばれる海に堆積した地層群の一つで、岐阜県の中濃地方から東濃地方へかけての可児・瑞浪・岩村の3地域に分かれて分布する。可児地域では下位から蜂屋累層、中村累層、平牧累層に、瑞浪地域では同じく土岐夾炭累層、本郷累層、明世累層、生俵累層に、岩村地域では同じく阿木累層、遠山累層にそれぞれ区分されている。これらは、大きくみると淡水域から汽水域、海域へと堆積環境が変化していったが、設楽層群などの他地域に分布する地層群に比べると浅海性の傾向がみられる。