化石名 赤坂石灰岩中の大型貝類化石 あかさかせっかいがんちゅうのおおがたかいるいかせき
  地層名 美濃帯堆積岩類
(大垣市赤坂町 金生山
 対象時代 ペルム紀
   概 要
   赤坂石灰岩は大垣市北西部にある金生山の山体をつくる石灰岩体を指す名称であり、美濃帯堆積岩類を構成する石灰岩体の中においても比較的大きな岩体の1つである。この石灰岩体は古生代ペルム紀に低緯度地方の火山島の上にできたサンゴ礁周辺の環境を表わしていると考えられており、ウミユリ、サンゴ、フズリナなどの化石が数多く産出することで知られている。それらに加えて二枚貝や巻貝の貝類化石も産出し、しかもそれらが大型のものであることを特徴としている。よく知られたものとして、二枚貝類ではシカマイアやアルーラ(最大25cm以上)、頭足類ではシーロガステロセラス(オオムガイ:殻径約30cm)、巻貝類ではベレロフォン、アカサキエラ(旧マーチソニア:最大40cm以上)、ゾンガスピラ(旧バスロトマリア)などがある。こうした大型貝類化石はフズリナなどとも共生しているが、ほとんどは有機炭素を多く含む黒色の石灰岩から産出する。
 
赤坂石灰岩から産出した大型貝類化石アルーラと頭足類シーロガステロセラス
(岐阜県博物館所蔵,写真:棚瀬充史)
 
  ジオ点描
   赤坂石灰岩の中から大型の貝類化石といわれると、常によく知られているフズリナなどとともに産出するのかと思ってしまう。しかし、それらのほとんどが有機質な黒色石灰岩から産出し、エサとなる生物が生きにくいヘドロ状の嫌気的な環境であったらしい。それには藻類との共生や、一部では硫黄酸化細菌との共生によって成長する化学合成生物であった可能性も考えられているが、はたしてどうだったのだろうか。
赤坂石灰岩から産出した大型貝類化石ゾンガスピセラとアカサキエラ
(岐阜県博物館所蔵,写真:棚瀬充史)
 
  文 献
ウミユリ
節足動物の甲殻類に属し、二枚貝のような炭酸カルシウムを多く含む固い背甲とミジンコに似た体部や付属肢をもつ体長0.5~1.0mmほどの動物で、「カイミジンコ」とも呼ばれる。淡水から海水まで地球上のほとんどの水域に広く生息し、ほとんどの種が底生生活をする。古生代オルドビス紀前期(約5億年前)から生息しており、背甲が微化石として地層中に多く残され、古生代以降の示準化石としても示相化石としても重要な役割を担っている。岐阜県地域では、飛騨外縁帯構成岩類の吉城層から日本最古となる古生代オルドビス紀を示すものが発見されたとして話題となったが、その後、それより若い時代のものと考えられるようになっている。
フズリナ
古生代の石炭紀~ペルム紀にいた石灰質の殻をもつ有孔虫であり、温暖な地域の海底付近に棲息し、当時のサンゴ礁と考えられている石灰岩中に多量に含まれることで知られる。単細胞の原生動物であるが、進化の過程で複雑な殻の形態をもつようになり、それが示準化石として重要な役割を演じている。岐阜県地域では美濃帯堆積岩類の石灰岩中に頻繁に含まれ、なかでも大垣市の金生山に分布する赤坂石灰岩に含まれるフズリナは、ギュンベルにより1874(明7)年に日本産化石に関する最初の論文として報告されたものであり、そのためにここが「日本の古生物学発祥地」とされている。
シカマイア
シカマイアは、古生代ペルム紀に生息した全長1m近くにも達する巨大な二枚貝化石とされているが、その生態はよくわかっていない。この化石が美濃帯堆積岩類の石灰岩中に幅約40m、高さ約80mにわたり岩板一面に含まれている状態で露出しており、それが指定されている。化石の名称は古生物学者の故鹿間時夫博士の名にちなんで命名されている。岐阜市司町にある旧岐阜総合庁舎 (旧県庁舎)は1924(大13)年に完成した県内最古の鉄筋建築物であり、そこに大量の石材が使われており、とりわけ玄関の壁面、階段などに大垣市赤坂の金生山から産出した大理石が使われ、それらの中にシカマイアがみられる。
石灰岩
美濃帯堆積岩類の中には、金生山の赤坂石灰岩、舟伏山地域の舟伏山石灰岩、石山地域の石山石灰岩などと呼ばれる比較的大きな石灰岩の岩体が分布しており、石灰石資源として採掘されていたり、場所によっては鍾乳洞地帯を形成している。古生代のペルム紀に形成された緑色岩(玄武岩質火山岩類)からなる海山を覆うサンゴ礁を構成していた石灰質生物の遺骸が集積して形成されたものであり、一般に緑色岩と密接にともなって美濃帯堆積岩類の中では最も古い時期に形成された岩石である。
金生山
伊吹山地の南東端にあり、美濃帯堆積岩類の石灰岩で構成されている標高217mの山である。この石灰岩は古生代ペルム紀に低緯度地方の火山島の上にできたサンゴ礁周辺の環境を表わしていると考えられている。その中からおもに巻貝や二枚貝、ウミユリ、サンゴ、フズリナ、石灰藻などの化石が数多く産出することで知られており、「日本の古生物学発祥の地」と呼ばれることがある。ここから産出した化石は南麓にある金生山化石館に多数展示されている。日本有数の石灰石の産出地であり、平野に近いという立地条件もあり、古くから石灰石や大理石の採掘が盛んに行われ、現在も複数の露天掘り鉱山が稼働している。なお、山の名称は「かなぶやま」と呼ぶのが正しいとされている。
地質年代
美濃帯堆積岩類
美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。