化石名 松葉石 まつばいし
  地層名 森部層  対象時代 ペルム紀中期
   概 要
   南部北上山地の気仙沼地方に分布するペルム紀中期の石灰質砂岩中に含まれるフズリナ化石の一種であり、直径2~3mmに対して長さが2cm前後もある細長い形をしている。それらが含まれる岩石の表面が溶けてそこに細長い外形が示される産状をもつ岩石に対して地元では「松葉石」と呼んでいる。正式な学名Monodiexodina matsubaishi(モノディークソーディナ・マツバイシ)もその呼称に由来している。それと同じものが岐阜県内において発見され、飛騨外縁帯構成岩類の森部層(ペルム紀)に含まれている。
 
森部層から産出した松葉石
(撮影:三宅幸雄)
 
  ジオ点描
   松葉石という名称は細長い形態のフズリナが松葉を寄せ集めたように見えることで与えられたとされている。しかし“針のように細長い松葉”というイメージはなく、“それなりに幅のある松葉”である。強いて言うなら“やや引き延ばされたタイ米”といった印象をもつ。人間がもつ印象というのは多様であり、誰もが同じというわけにはいかない。それだけに“言った者勝ち”というところがある。
  文 献 田沢純一・対馬勝吉・長谷川美行(1993)飛騨外縁帯のペルム系森部層よりMonodiexodinaの発見.地球科学,47巻,345-348頁.
飛騨外縁帯構成岩類
飛騨外縁帯は、飛騨帯の南側を取りまくように幅数~30kmほどで細長く分布する地質帯である。岐阜県地域では飛騨山脈の槍ヶ岳(標高3180m)付近から高山市の奥飛騨温泉郷、丹生川町北部~国府町地域、清見町楢谷(ならだに)、郡上市白鳥町石徹白(いとしろ)などに断片的に配列して露出している。そこを構成している岩石はかなり変化に富み、古生代に形成された非変成の砕屑岩類や火山岩類、結晶片岩などからなる変成岩類、超苦鉄質岩(U)から変化した蛇紋岩と呼ばれる岩石などである。これらの岩石は、飛騨帯構成岩類を一部に含めた当時の大陸(中朝地塊と呼ばれる)の東縁で形成された陸棚や浅海性の堆積物および火山砕屑物が中生代ジュラ紀中ごろまでに大規模な横ずれ運動をともなって飛騨帯構成岩類と接するようになり、その過程でもたらされた変成岩類や超苦鉄質岩を断片的にともなって形成されたと考えられている。ただし、飛騨外縁帯と飛騨帯との間には、富山県地域や新潟県地域などにおいて宇奈月帯あるいは蓮華帯と呼ばれる変成岩類で構成された地帯が分布しており、岐阜県地域においてもそれらとよく似た性質の岩石が断片的に分布するが、よくわかっていない点もあるため、ここではすべて飛騨外縁帯の構成岩類として扱う。
フズリナ
古生代の石炭紀~ペルム紀にいた石灰質の殻をもつ有孔虫であり、温暖な地域の海底付近に棲息し、当時のサンゴ礁と考えられている石灰岩中に多量に含まれることで知られる。単細胞の原生動物であるが、進化の過程で複雑な殻の形態をもつようになり、それが示準化石として重要な役割を演じている。岐阜県地域では美濃帯堆積岩類の石灰岩中に頻繁に含まれ、なかでも大垣市の金生山に分布する赤坂石灰岩に含まれるフズリナは、ギュンベルにより1874(明7)年に日本産化石に関する最初の論文として報告されたものであり、そのためにここが「日本の古生物学発祥地」とされている。



地質年代
森部層
丹生川町北部~国府町地域に分布する飛騨外縁帯構成岩類の一つで、高山市中切から丹生川町森部を経て、上宝(かみたから)町堂殿(どうでん)にかけて分布する.泥岩、泥岩砂岩互層、砂岩などからなり、礫岩や石灰岩をともなう陸棚成堆積物であり、層厚は1,430m以上と厚い。基底部に花崗岩の礫をふくむ礫岩がある.一部で変成作用を受け、片理が明瞭である。フズリナやサンゴの化石を含み、荒城川層(古生代石炭紀)を不整合に覆うと考えられている。