断層名 八幡断層(概説) はちまんだんそう
  場所
   概 要
   郡上八幡の市街地南方の穀見(こくみ)付近から北西へ向かって長良川や東海北陸道を横切り、長良川の流路にほぼ並走するようにその西側の山地を北北西へ向かい、大和町落部(おちべ)を経て油坂(あぶらざか)峠道路を横切り、さらにその北方まで約25kmの長さで延びる活断層である。断層に沿って系統的に50~300mの左横ずれ屈曲を示し、山地斜面の傾斜急変点や明瞭な断層鞍部の連なりにより直線的な線状地形模様(リニアメント)が認められるが、低断層崖などの最近の活動を示す変動地形は認められていない。とはいえ、トレンチ調査によると最新の活動時期は約2,400年前と約5,000年前とされている。断層の東側に対して西側が300mほど上昇して高度差を形成し、大きく見ると長さや規模からして長良川上流地域において中心をなす活断層であり、断層の西側隆起(東側沈降)の運動と長良川の谷底平野の形成は無関係とは考えにくい。
 
衛星画像「だいち」で見た八幡断層
(JAXAイメージNo.D-0919(郡上市周辺)を利用)
 
  ジオ点描
   八幡断層が通る山地部に対してそれに並走する郡上八幡~白鳥間の長良川は、大きな河川の上流部としては珍しく幅の広い谷底平野を形成しており、それが長良川本流にダムが造られなかった一因にもなっている。こうした直線的に流れる谷底平野に沿って活断層が通っている例は飛騨川沿いの下呂~萩原間における阿寺断層系北部の断層群でみられるが、長良川沿いではこうした証拠は見出されていない。
衛星画像と同一範囲における八幡断層の分布 
  文 献 粟田泰夫・橋本智雄・細矢卓志(2014)長良川上流断層帯,八幡断層の完新世における複数回の活動.活断層・古地震研究報告,14号,39-56頁.  
油坂峠道路
郡上市と福井県大野市の境にある油坂峠(標高780m)へ向けて岐阜県側から標高差約420mの急勾配をループ状の高架橋とトンネルを組み合わせることで勾配を緩和しながら登坂していく道路である。高規格幹線道路である中部縦貫自動車道の一部となっており、白鳥町の街を高架橋で跨いで東海北陸自動車道とつながっている。峠への登坂部分はすべて美濃帯堆積岩類の上あるいは中を通っている。峠への道で旅人がだらだらと油汗をかいたことからこの名があるとの説があり、この急勾配は八幡断層の断層崖に相当し、その西側が上昇隆起する運動で形成されたものである。八幡断層はこの道路を横切っている。
阿寺断層系
阿寺断層系は、中津川市馬籠(まごめ)付近から北西へ向かって、同市坂下、付知町、加子母(かしも)を経て、下呂市萩原町の北方へ至る全長約70kmにも及ぶ日本でも第一級の活断層系である。ほかの大規模な活断層系と同様に、複数の断層が平行にあるいは枝分れして走っている。それらのうち、おおよそ中津川市と下呂市の境界にある舞台峠付近より南に分布する断層群を阿寺断層と呼び、それより北に分布する断層群にはそれぞれ別の名称がつけられている。大きくみると、阿寺断層系は、その北東側にある標高1500~1900mの山稜部を持つ比較的なだらかな阿寺山地とその南西側にある標高1000m前後の美濃高原との境界部にある断層帯で、両者はもともと一続きの地形であり、地形上の高度差700~800mがそのまま断層による縦ずれ移動量を示すが、それよりも10倍近くの大きさで左横ずれ移動量をもち、それは断層を境に河川の流路が8~10kmも隔てて屈曲していることに表れている。



地質年代