対象物 双六岳の構造土 すごろくだけのこうぞうど
  場所 岐阜・長野県境 双六岳周辺
   概 要
   双六岳(標高2,860m)は、飛騨山脈の槍ヶ岳(標高3,180m)から二重稜線のある西鎌(にしかま)尾根を経て三俣蓮華岳(みつまたれんげだけ;標高2,841m)へ至る“裏銀座縦走ルート”にある峰で、樅沢岳(もみさわだけ;標高2,755m)と三俣蓮華岳の間にあり、“花の百名山”、“ぎふ百山”などに選定されている山として知られる。その山頂部周辺はゆるやかな高原のような平坦地からなり、槍・穂高連峰の展望地としても知られており、そこに「構造土」がみられる。構造土は、水分を含む土壌が凍結と融解を繰り返すことで粒径の違いによりその移動量が異なり、それにより地表面に形成される幾何学的な模様であり、平面の形態によって多角形土、亀甲土、円形土、網状土、条線土、階状土などに分類されている。日本では標高の高い地帯においておもに平坦な地形をなすところで観察され、双六岳山頂部周辺では円形土(環状砂礫)が多くみられる。ちなみに構造土のように地中の水分が凍結や融解を繰り返すことによって形成される地形を「周氷河地形」という。
 
双六岳山頂部にみられる構造土
(撮影:中田裕一)
 
  ジオ点描
【氷河地形に共通】 カールU字谷地形といった氷河地形や構造土などの周氷河地形は、氷河あるいはそれをもたらすような気候に依存する現象であり、大地の種類や性質といった地質環境とはまったく無関係にもたらされる。とはいえ、日本では北海道地域を除けば氷河をもたらすような標高の高い地帯を作り出す作用として大地の隆起運動あるいは火山体の形成が背景としてあることでもたらされたものである。
構造土のある双六岳山頂部の平坦な地形(後方は槍ヶ岳)
(撮影:中田裕一)
 
  文 献  
二重稜線
西鎌尾根は槍ヶ岳(標高3180m)から北西へ向かって樅沢(もみさわ)岳(標高2755m)に至る県境尾根であり、ここに2つの稜線が平行して並ぶ二重山稜が見られる。これは稜線付近において重力によって尾根が断層面に沿ってずれ落ちることでできるものである。その原因として、高山地帯において氷河が消滅することで稜線部が支えを失ってカール側へずれ落ちる場合、山地の隆起にともなって岩盤が圧力から解放されるために山頂部が膨らむことで、稜線部が重みを支えきれなくなって陥没する場合などが考えられている。西鎌尾根においては両方の原因とも該当する可能性がある。二重山稜に挟まれた間の窪地は線状凹地といい、しばしば沼や池を作ることがある。
槍・穂高連峰
飛騨山脈において北の槍ヶ岳(標高3180m)から南の前穂高岳(同3090m)までの直線距離で約7kmの範囲であり、ここに標高3000m以上の峰々がほぼ南北方向に並ぶ。大岩壁・岩峰などの迫力ある山岳地形に加えて、氷河地形が随所にみられる。この山稜には尾根付近の高所に穂高安山岩類、山腹の低所に滝谷花崗閃緑岩がそれぞれ分布し、ともに176万年前から80万年前というきわめて新しい時代に形成された槍-穂高火山を構成する岩石である。滝谷花崗閃緑岩が上昇しながら貫入し、山塊が西側を高くして東側を低くするような傾動隆起を起こしたことで3000m級の峰々がもたらされた。その時期は約130万年前以降のごく最近のことである。
カール
氷河の浸食で作られた馬蹄形をした凹地形をカールまたは圏谷といい、日本では標高の高い山岳地帯の屋根近くの谷頭に残されていることが多い。カールの典型的な形態は、谷頭と側方が急斜面からなり、谷底は滑らかに削られて盆地状をなしており、その出口付近には弓なりの堤防状に延びる氷河堆積物のモレーンがある。日本では冬の季節風により雪が稜線の東側に多く吹きたまるために、カールは稜線の東側に多くでき、飛騨山脈では長野県側に多くみられる。岐阜県側では、飛騨山脈の主稜から離れた位置にある笠ヶ岳(標高2898m)の東斜面に“杓子平(しゃくしだいら)”と“播隆平(ばんりゅうだいら)”という2つのカール地形が明瞭に残されている。とくに杓子平では、大小2つのカールが複合した地形をなしており、少なくとも2回の氷期があったことを示している。ちなみに笠ヶ岳は県境になっていない峰としては岐阜県内の最高峰である。
U字谷地形
谷氷河の浸食によって形成され、横断面がU字に近い谷地形をU字谷地形という。河川による浸食でつくられるV字谷とは違い、幅広い谷底と急傾斜の谷壁からなることを特徴とする。トラフ谷ともいう。北欧のフィヨルドはそこに海水が浸入した例としてよく知られている。標高の高い飛騨山脈では氷河時代の名残りとしてこのU字谷があるが、その後の浸食作用が激しい地域であるためにU字形を明瞭に残しているわけではない。槍ヶ岳(標高3180m)を挟んで長野県側の槍沢と岐阜県側の飛騨沢はともに谷氷河によって形成されたU字谷地形と考えられており、槍ヶ岳は氷河によって複数方向から削られてできる氷食尖峰の代表例とされている。同じ氷食地形であるカールはU字谷の谷頭にしばしばともなわれるが、稜線の東側に多くあり、稜線の西側にある飛騨沢には明確なものはともなわれていない。

地質年代