対象物 乗鞍岳の構造土 のりくらだけのこうぞうど
  場所 岐阜・長野県境 乗鞍岳山頂付近
   概 要
   乗鞍岳地域においてはカールU字谷地形といった氷河地形はみられないが、標高2,700m以上の山頂部周辺で周氷河地形として構造土が見られる。構造土は水分を含む土壌が凍結と融解を繰り返すことで粒径の違いによりその移動量が異なり、それにより地表面に形成される幾何学的な模様であり、平面の形態によって多角形土、亀甲土、円形土、網状土、条線土、階状土などに分類されている。恵比寿岳(標高2,831m)の東側にある亀ヶ池周辺は多角形土(亀甲礫)が日本で最初に発見されたところである。かつては鶴ヶ池や五ノ池周辺でも多角形土が、不消ヶ池(きえずがいけ)や高天ヶ原(たかまがはら)周辺では礫や砂による線が間隔を置いて連なる縞模様の条線土がそれぞれ見られたが、現在では踏み荒されてしまい一部に残っているだけとなっている。
 
乗鞍岳の山頂部周辺でみられる構造土①
(撮影:木澤慶和)
 
  ジオ点描
【氷河地形に共通】 カール・U字谷地形といった氷河地形や構造土などの周氷河地形は、氷河あるいはそれをもたらすような気候に依存する現象であり、大地の種類や性質といった地質環境とはまったく無関係にもたらされる。とはいえ、日本では北海道地域を除けば氷河をもたらすような標高の高い地帯を作り出す作用として大地の隆起運動あるいは火山体の形成が背景としてあることでもたらされたものである。
乗鞍岳の山頂部周辺でみられる構造土②
(撮影:鹿野勘次)
 
  文 献 中野 俊・大塚 勉・足立 守・原山 智・吉岡敏和(1995)乗鞍岳地域の地質.地域地質研究報告 (5万分の1地質図幅).地質調査所,139頁.
カール
氷河の浸食で作られた馬蹄形をした凹地形をカールまたは圏谷といい、日本では標高の高い山岳地帯の屋根近くの谷頭に残されていることが多い。カールの典型的な形態は、谷頭と側方が急斜面からなり、谷底は滑らかに削られて盆地状をなしており、その出口付近には弓なりの堤防状に延びる氷河堆積物のモレーンがある。日本では冬の季節風により雪が稜線の東側に多く吹きたまるために、カールは稜線の東側に多くでき、飛騨山脈では長野県側に多くみられる。岐阜県側では、飛騨山脈の主稜から離れた位置にある笠ヶ岳(標高2898m)の東斜面に“杓子平(しゃくしだいら)”と“播隆平(ばんりゅうだいら)”という2つのカール地形が明瞭に残されている。とくに杓子平では、大小2つのカールが複合した地形をなしており、少なくとも2回の氷期があったことを示している。ちなみに笠ヶ岳は県境になっていない峰としては岐阜県内の最高峰である。
U字谷地形
谷氷河の浸食によって形成され、横断面がU字に近い谷地形をU字谷地形という。河川による浸食でつくられるV字谷とは違い、幅広い谷底と急傾斜の谷壁からなることを特徴とする。トラフ谷ともいう。北欧のフィヨルドはそこに海水が浸入した例としてよく知られている。標高の高い飛騨山脈では氷河時代の名残りとしてこのU字谷があるが、その後の浸食作用が激しい地域であるためにU字形を明瞭に残しているわけではない。槍ヶ岳(標高3180m)を挟んで長野県側の槍沢と岐阜県側の飛騨沢はともに谷氷河によって形成されたU字谷地形と考えられており、槍ヶ岳は氷河によって複数方向から削られてできる氷食尖峰の代表例とされている。同じ氷食地形であるカールはU字谷の谷頭にしばしばともなわれるが、稜線の東側に多くあり、稜線の西側にある飛騨沢には明確なものはともなわれていない。
構造土
標高の高い山岳地帯などの寒冷地において土壌の凍結と融解が繰り返されることで、植生が少ない場所で移動しやすい砂礫がふるいわけを受けることでできる。その形態によって多角形土(亀甲礫)、円形土(環状砂礫)、網状土、階段状土、条線土などと呼ばれている。


地質年代