対象物 熊石洞 くまいしどう
  場所 郡上市八幡町美山(みやま)熊石
   概 要
   郡上市八幡町から和良(わら)町にかけての地域に帯状に分布する美濃帯堆積岩類石灰岩に形成された鍾乳洞の1つであるが、それらのほとんどが横穴洞であるのに対して、最大級の縦穴洞を作っている鍾乳洞である。延長707m、高度差130mにもおよぶ鍾乳洞で、洞穴口から約20mの垂直穴があり、さらに30m下がった地点から55mにも及ぶ垂直穴になっている。ただし、この鍾乳洞は観光洞になっていないこともあり、洞穴口はわかりにくく見学はできない。周囲には“ドリーネ”と呼ばれる石灰岩地帯に特有の大小さまざまのすり鉢型の窪地が見られる。これらは地下の空洞の天井部が陥没することによって形成されることが多い。現在の洞穴口の少し上位にあるドリーネとして残っている当時の縦穴に落ちた氷河時代の大型哺乳動物が洞穴内部の堆積物中から歯・角・足の骨などの数千点におよぶ化石として見つかっており、それらは美山動物群として知られている。
 
八幡町美山熊石にある熊石洞の洞穴口
(撮影:鹿野勘次)
 
  ジオ点描
   鍾乳洞は石灰岩が地下水に溶かされたことで作られたものであり、その多くが横穴洞であることは地下水の水位が一定の期間にわたり保たれていたことを表わしている。ところが、この横穴洞をつなげる程度の縦穴洞はあっても縦穴洞を卓越させた鍾乳洞はかなり限られる。縦穴洞には垂直方向に延びる地下水脈が用意される必要があり、周囲に深い谷が作る急傾斜の斜面があると形成されやすいとされている。
 
  文 献 奥村 潔・石田 克・河村善也・熊田 満・田宮須賀子(1982)岐阜県熊石洞産後期洪積世哺乳動物群とその14C年代の意義.地球科学,36巻,214-218頁.
美濃帯堆積岩類
美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。 超丹波帯は、近畿地方において丹波帯(中部地方の美濃帯に相当)とその北側にある舞鶴帯と呼ばれる構造帯との間に存在し、丹波帯が中生代ジュラ紀に付加作用を受けて形成された付加体堆積物で構成されているのに対して、おもに古生代ペルム紀に付加作用を受けて形成された付加体堆積物で構成されている地質帯である。中部地方においては、美濃帯の北縁部で福井県の南条地域と岐阜県の高山市丹生川町地域で分布が確認されているだけである。
石灰岩
美濃帯堆積岩類の中には、金生山の赤坂石灰岩、舟伏山地域の舟伏山石灰岩、石山地域の石山石灰岩などと呼ばれる比較的大きな石灰岩の岩体が分布しており、石灰石資源として採掘されていたり、場所によっては鍾乳洞地帯を形成している。古生代のペルム紀に形成された緑色岩(玄武岩質火山岩類)からなる海山を覆うサンゴ礁を構成していた石灰質生物の遺骸が集積して形成されたものであり、一般に緑色岩と密接にともなって美濃帯堆積岩類の中では最も古い時期に形成された岩石である。
美山動物群
郡上市八幡町美山にある熊石洞の割れ目につまっている土砂から発見された30種近くにおよぶ多数の哺乳類化石群で、その歯,角,足の骨など数千点に達する。草原で生活していたナウマンゾウやオオツノジカ,針葉樹林帯の湿地で生活していたヘラシカなどで、これらの化石の骨から得られた年代値から、最後の氷期にあたる時期の寒冷気候下の環境に生息した動物群である。


地質年代