対象物 縄文(鍾乳)洞 じょうもん(しょうにゅう)どう
  場所 郡上市八幡町安久田(あくた)2298
   概 要
   地元で“地獄穴洞窟”と呼ばれていた鍾乳洞が、洞内から縄文時代早期から弥生時代に至る土器や人骨などが見つかったことで「縄文(鍾乳)洞」の名称で1971(昭46)年4月に観光洞として開放された。大滝鍾乳洞の近くにあり、それと同じ美濃帯堆積岩類石灰岩内部に形成された鍾乳洞であるが、大滝鍾乳洞にくらべて非常に複雑な迷路になっていることを特徴としており、高低差約55mの範囲に7層にわたり総延長799mの多層迷路型の洞窟が形成されている。水の出口となる場所がなく、水流が穏やかで多数の断層や割れ目に沿ってゆっくりと溶かしたためと考えられている。洞内の生成物は、鍾乳石・石柱・石筍・流れ石・カーテン・鍾乳管・洞穴サンゴなど、いずれも新鮮で美しく、多くの種類・量が見られるが、照明の設備がなく、懐中電灯の灯りだけで洞窟めぐりができるようになっている。
 
八幡町安久田にある縄文洞の入口
(撮影:小井土由光)
 
  ジオ点描
   内部が開放され観光洞となっている鍾乳洞では照明装置が施され、通路ばかりでなく鍾乳石などを照らし出すことでよく知られた鍾乳洞の景観を演出している。そうした照明装置が無ければ、外部から光が入らない限り洞内は真っ暗であり、それが鍾乳洞の本来のすがたということになる。見慣れた鍾乳洞の景観は人間が作り出したすがたに過ぎないことを知っておくべきである。
 
  文 献 脇田浩二(1984)八幡地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅).地質調査所,89頁.
大滝鍾乳洞
郡上市八幡町から和良(わら)町にかけての地域には美濃帯堆積岩類の石灰岩が帯状に分布しており、地下には大小あわせて35洞にもなるとされる鍾乳洞が形成されている。大滝鍾乳洞はそれらの中の一つとして1969(昭44)年に発見され、東西方向に約270m,南北方向に約40m、高低差約100mの範囲に大きく4段にわたり広がっている鍾乳洞である。この鍾乳洞は断層に沿って水が集中して流れて大きな滝を地下に形成していることを特徴としており、なかでも最奥部の地下60mの位置にある“大滝”は約30mの落差をもち、豊富な水量を誇っており、観光洞としてのこの鍾乳洞のシンボルとなっている。全体に洞内を流れる水量が多く、泥が洗い流されて白色の透明度の高い鍾乳石類が多くみられる。
美濃帯堆積岩類
美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。 超丹波帯は、近畿地方において丹波帯(中部地方の美濃帯に相当)とその北側にある舞鶴帯と呼ばれる構造帯との間に存在し、丹波帯が中生代ジュラ紀に付加作用を受けて形成された付加体堆積物で構成されているのに対して、おもに古生代ペルム紀に付加作用を受けて形成された付加体堆積物で構成されている地質帯である。中部地方においては、美濃帯の北縁部で福井県の南条地域と岐阜県の高山市丹生川町地域で分布が確認されているだけである。
石灰岩
美濃帯堆積岩類の中には、金生山の赤坂石灰岩、舟伏山地域の舟伏山石灰岩、石山地域の石山石灰岩などと呼ばれる比較的大きな石灰岩の岩体が分布しており、石灰石資源として採掘されていたり、場所によっては鍾乳洞地帯を形成している。古生代のペルム紀に形成された緑色岩(玄武岩質火山岩類)からなる海山を覆うサンゴ礁を構成していた石灰質生物の遺骸が集積して形成されたものであり、一般に緑色岩と密接にともなって美濃帯堆積岩類の中では最も古い時期に形成された岩石である。


地質年代