対象物 各務原の組織地形 かかみがはらのそしきちけい
  場所 各務原市須衛(すえ)
   概 要
   大地が浸食されることで形成される地形のうち、硬い岩石からなる地層と軟らかい岩石からなる地層が交互に並ぶなどの地質構造を反映して、削剥される程度の差により顕著に表れた凹凸地形を「組織地形」という。各務原市と関市との境界には東西方向に尾根が延び、それに並ぶようにその南側にもほぼ同じ高さで尾根が延びている。どちらの尾根も美濃帯堆積岩類チャートでできており、浸食に強く、削り残された硬い地層の分布域が高い峰を作っている。その間にある低地には美濃帯堆積岩類の砂岩が分布しており、相対的に軟らかく、削られやすい地層の分布域が低地を作ることでみごとな組織地形をつくっている。これらの地層の列を少し広く見ると、大きく曲げられた巨大な褶曲構造が形成されており、その東側で閉じて西側で開いた舟底型をなして東西方向に延びた形をして分布しており、その北側にあたる部分が組織地形を示す2つの尾根にあたる。
 
岐阜市大洞の権現山付近から見た各務原北部の組織地形
(撮影:田辺元祥)
 
  ジオ点描
   組織地形の代表格に挙げられる“ケスタ”は緩傾斜した硬軟の岩石の互層が差別浸食を受けてできる地形である。パリ盆地周辺など海外での例がよく知られており、一定の範囲に連続して見られることが多い。日本ではあまり典型的な組織地形は残りにくい。雨量が多いことで浸食が進みやすく、さらに地殻変動が激しいことで連続した地形としても残りにくいために、地質の硬軟を忠実に反映した地形とはなりにくい。
 
  文 献
美濃帯堆積岩類
美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。
チャート
一般には硬く緻密な微粒珪質堆積岩の総称であり、美濃帯堆積岩類を構成する主要な岩石の一つとして特徴的に産する。厚く層状に分布することが多く、これを層状チャートと呼ぶ。一部に古生代ペルム紀のものも含まれるが、ほとんどは中生代三畳紀~ジュラ紀前期に海底に堆積した放散虫などのプランクトンからなる遠洋性の堆積物で、陸源砕屑物をまったく含まない。
砂岩
美濃帯堆積岩類において、海洋プレートが大陸縁辺に近づき、海溝で沈み込んでいく際に陸域から供給される砕屑物である。それぞれが単独の地質体を作る場合もあれば、互層をなす場合もあり、前者においては厚い砂岩層としてしばしば産する。これらの多くは海底地すべりにより混濁流としてもたらされたタービダイトを形成している。


地質年代