対象物
二重山稜
にじゅうさんりょう
場所
岐阜・長野県境 西鎌(にしかま)尾根
概 要
重力によって山稜部が断層面に沿ってずれ落ちることでできる2つの稜線が平行して並ぶ地形を「二重山稜」という。県北東端部において槍ヶ岳(標高3,180m)から北西へ向かって樅沢(もみさわ)岳(標高2,755m)に至る西鎌(にしかま)尾根は長野県との県境尾根にあたる稜線であり、そこに二重山稜が見られる。二重山稜が形成される要因としては、かつては標高の比較的高い地帯の稜線付近において氷河が消滅することで稜線部の支えが失われて
カール
側へずれ落ちると考えられていたこともあったが、それほど高い山岳地帯でなくてもかなりみられることから、山地の隆起にともなって岩盤が周囲の圧力から解放されるために山頂部が膨らむことで稜線部が重みを支えきれなくなってずれ落ちる場合や山体斜面が削り込まれて不安定となって重力ですべり落ちる場合などが考えられている。西鎌尾根においても氷河の消滅というよりは山体の隆起により周囲の圧力から解放されて稜線部が膨らむことでずれ落ちた可能性が高い。二重山稜に挟まれた間の窪地は“線状凹地”といい、そこには冬季に雪の吹き溜まりとなることから“雪くぼ”とも呼ばれる。しばしば沼や池を作ることもあり、登山において風を避けることができることから絶好の休憩地となり、西鎌尾根では高山植物やライチョウを観察できる。
槍ヶ岳の北西方にある長野県境の西鎌尾根でみられる二重山稜
(撮影:中田裕一)
ジオ点描
二重山稜は、山体にかかる重みが失われて山体が膨張することで隆起し、不安定となった山体斜面が重力で大規模にすべり落ちることで稜線部が支えられなくなって形成される地形である。山体の隆起運動という内因的な要素を前提として備えているものの、基本的には山体が削られて不安定となり、重力で地すべりを起こすという外因的な要素によりもたらされた地形と考えてよい。
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文 献
小嶋 智(2018)応用地質学的視点からみた山体重力変形地形研究の進展と展望.地質学雑誌,124巻,889-897頁.
カール
氷河の浸食で作られた馬蹄形をした凹地形をカールまたは圏谷といい、日本では標高の高い山岳地帯の屋根近くの谷頭に残されていることが多い。カールの典型的な形態は、谷頭と側方が急斜面からなり、谷底は滑らかに削られて盆地状をなしており、その出口付近には弓なりの堤防状に延びる氷河堆積物のモレーンがある。日本では冬の季節風により雪が稜線の東側に多く吹きたまるために、カールは稜線の東側に多くでき、飛騨山脈では長野県側に多くみられる。岐阜県側では、飛騨山脈の主稜から離れた位置にある笠ヶ岳(標高2898m)の東斜面に“杓子平(しゃくしだいら)”と“播隆平(ばんりゅうだいら)”という2つのカール地形が明瞭に残されている。とくに杓子平では、大小2つのカールが複合した地形をなしており、少なくとも2回の氷期があったことを示している。ちなみに笠ヶ岳は県境になっていない峰としては岐阜県内の最高峰である。
地質年代