対象物 非対称山稜 ひたいしょうさんりょう
  場所 抜戸岳(ぬけどだけ)北稜線
   概 要
   標高の高い飛騨山脈の主稜線や笠ヶ岳(標高2,898m)北東方の抜戸岳(標高2,813m)北稜線などの南北方向に連なる稜線においては、全体として東側斜面のほうが西側斜面よりも急傾斜になって非対称形をなしている。このように山稜部の稜線において両側の斜面の傾斜が非対称な地形を「非対称山稜」という。この場合に、西側斜面では冬の季節風のために雪が吹き払われて山肌がほぼむき出しになり、土壌や岩盤の凍結が深部まで進むために内部から岩石が破砕されやすく、移動が起こりやすくなって緩やかな斜面ができ、植生が豊かになる所が多い。それに対して風下側の東側斜面では雪が吹き溜まり、長期間にわたり雪が残るために氷期にはカールなどの氷河地形も偏在して作られ、植生に乏しくなることで土砂の浸食が活発に起こりやすくなるために急な斜面ができる。こうした気候環境の違いが植生の違いをもたらし、それが長期間にわたり繰り返されることで大地の浸食程度に差異が生じ、地形の形成に影響して非対称な山稜が形成される。
 
笠ヶ岳北西方の抜戸岳北稜線でみられる非対称山稜
(撮影:鹿野勘次)
 
  ジオ点描
   少なくとも日本では、非対称山稜は氷河あるいは季節風がもたらした特異な地形であり、カールなどの氷河地形と同様に、大地の種類や性質といった地質環境と直接的にかかわってもたらされるものではない。とはいえ、氷河をもたらしたり、気象の影響を直接的に受けやすい標高の高い地帯を作り出すのは大地の運動であり、背景としてジオに関わる環境があることでもたらされたことになる。
樅沢岳南方の弓折岳北東稜線でみられる非対称山稜
(撮影:鹿野勘次)
 
  文 献
カール
氷河の浸食で作られた馬蹄形をした凹地形をカールまたは圏谷といい、日本では標高の高い山岳地帯の屋根近くの谷頭に残されていることが多い。カールの典型的な形態は、谷頭と側方が急斜面からなり、谷底は滑らかに削られて盆地状をなしており、その出口付近には弓なりの堤防状に延びる氷河堆積物のモレーンがある。日本では冬の季節風により雪が稜線の東側に多く吹きたまるために、カールは稜線の東側に多くでき、飛騨山脈では長野県側に多くみられる。岐阜県側では、飛騨山脈の主稜から離れた位置にある笠ヶ岳(標高2898m)の東斜面に“杓子平(しゃくしだいら)”と“播隆平(ばんりゅうだいら)”という2つのカール地形が明瞭に残されている。とくに杓子平では、大小2つのカールが複合した地形をなしており、少なくとも2回の氷期があったことを示している。ちなみに笠ヶ岳は県境になっていない峰としては岐阜県内の最高峰である。




地質年代