対象物 般若谷扇状地 はんにゃだにせんじょうち
  場所 海津市南濃町石津
   概 要
   養老山地と濃尾平野との境界付近にはほぼ南北方向に養老断層が延びており、これにより東側の濃尾平野側が沈降しているのに対して、西側の養老山地側は隆起している。とりわけ養老山地は急激に上昇隆起していることで激しく浸食されていき、運び出された土砂は谷が平野部に出るところに堆積してさまざまな規模で例外なく扇状地を形成しており、それらのうち代表的で典型的なものである。浸食された土砂は通常の流れでも山地から徐々に運び出されているが、ほとんどは豪雨などで一時的に大量の水がもたらされた時に土石流を引き起こして一気に大量に運び出され、粗粒の土砂を堆積させて扇状地を形成しいく。そのためその上を流れる河川は周囲より高い天井川になり、しかも通常時には水は粗粒の土砂で構成されている堆積物にしみ込んでしまい、地表を流れることはない。この扇状地においても般若谷の流路は涸れ谷となっており、その下を南北に横切る近鉄養老線や国道258号はトンネルでくぐっている。
 
南濃町安江にある般若谷扇状地の遠望
(撮影:小井土由光)
 
  ジオ点描
   隆起する山地は“出る杭は打たれる”ように削られていき、大量の土砂を山麓へ運び出して扇状地を形成する。そこは適度な傾斜地を提供してくれることで人間の生活の舞台となっているだけでなく、そもそもは豪雨により発生する土石流によってもたらされたものであるから土砂災害の舞台でもある。扇状地は自然がもたらす恩恵とリスクが背中合わせで同居する舞台ということになる。
般若谷扇状地における天井川をくぐる国道258号トンネル
(撮影:小井土由光)
 
  文 献 高田康秀・近藤善教・宮村 学(1979)津島地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,56頁.
養老断層
濃尾平野から西方を望むと、養老山地が南北方向に延び、その東側斜面が壁のように立ちはだかり、ほぼ直線的な境界で濃尾平野と接している。その境界に沿って約40kmにわたり養老断層が延びている。養老山地から濃尾平野を経て東方の猿投(さなげ)山地に至る地形上の単位は「濃尾傾動地塊」と呼ばれ、東側が緩やかに上昇し、濃尾平野が沈降していく濃尾傾動運動で作られたものである。沈降していく濃尾平野と上昇していく養老山地との間に養老断層があり、その上下移動量は数百万年前から現在までに2,000m以上に達していると考えられている。沈降していく濃尾平野には木曽三川が運び込んだ大量の土砂が堆積しているから、その2/3ほどは埋められており、実際の養老山地東側の斜面では1/3ほどだけが断層崖として顔をのぞかせていることになる。




地質年代