地 名 多良峡 たらきょう
  場 所 大垣市上石津(かみいしづ)町下多良~一之瀬  指定等 揖斐関ヶ原養老国定公園/飛騨・美濃紅葉33選
   概 要
   鈴鹿山脈から濃尾平野へ向かって流れ出る牧田川が上石津町下多良より下流の2.5kmほどの区間に作っている峡谷である。峡谷部は養老山地の北西麓にあたる地域であり、チャート泥岩などからなる美濃帯堆積岩類を削剥している。国道365号はもともとは峡谷部において牧田川の流路に沿って通っていたが、現在はそこを直線状にショートカットするように2km近くの長大な「上石津トンネル」として貫いている。紅葉の名所として知られ、「多良峡森林公園」として整備されている。
 
上石津町下多良にある多良峡の景観
(撮影:小井土由光)
 
  ジオ点描
   何らかの地質素材が景勝地を作っていることは間違いないが、岩盤が露出している光景が広がっていても、とりたてて地質素材による景観として取り上げるほどにはならないことが多い。実際には紅葉のような植生が作り出す景観に注目されるなど、眺める方にも地質という視点はほとんどない。残念ながらジオと関連付けて鑑賞するような機会はやはりマニアックな見方になってしまうようである。  
 
  文 献
チャート
一般には硬く緻密な微粒珪質堆積岩の総称であり、美濃帯堆積岩類を構成する主要な岩石の一つとして特徴的に産する。厚く層状に分布することが多く、これを層状チャートと呼ぶ。一部に古生代ペルム紀のものも含まれるが、ほとんどは中生代三畳紀~ジュラ紀前期に海底に堆積した放散虫などのプランクトンからなる遠洋性の堆積物で、陸源砕屑物をまったく含まない。
泥岩
美濃帯堆積岩類において、海洋プレートが大陸縁辺に近づき、海溝で沈み込んでいく際に陸域から供給される砕屑物である。それぞれが単独の地質体を作る場合もあれば、互層をなす場合もあり、前者においては厚い砂岩層としてしばしば産する。これらの多くは海底地すべりにより混濁流としてもたらされたタービダイトを形成している。
美濃帯堆積岩類
美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。


地質年代