地 名 槍・穂高連峰 やり・ほだかれんぽう
  場 所 岐阜・長野県境  指定等 中部山岳国立公園/日本百名山/新日本百名山
   概 要
   飛騨山脈において北の槍ヶ岳(標高3,180m)から南の前穂高岳(同3,090m)までの直線距離で約7kmの範囲であり、ここに3,000m以上の峰々がほぼ南北方向に並ぶ。大岩壁・岩峰などの迫力ある山岳地形に加えて、氷河地形が随所にみられる。この山稜には尾根付近の高所に穂高安山岩類、山腹の低所に滝谷花崗閃緑岩がそれぞれ分布し、ともに176万年前から80万年前というきわめて新しい時代に形成された槍-穂高火山を構成する岩石である。滝谷花崗閃緑岩が貫入しながら上昇し、山塊が西側を高くして東側を低くするような傾動隆起を起こしたことで3,000m級の峰々がもたらされた。その時期は約130万年前以降のごく最近のことである。
 
樅沢岳稜線より遠望した槍・穂高連邦
(撮影:鹿野勘次)
 
  ジオ点描
   3,000m級の高さをもって険しい岩場が続く山岳地帯は、急速な勢いで隆起し続けているのと同時に激しく削られ続けていることを表わしており、高度を生み出すとともに削り込む材料を提供していることになる。槍・穂高連峰を含めて飛騨山脈地帯でしばしば起こる岩盤の崩落は登山者にとって危険なトラブルをもたらすが、偶然の出来事ではなく必然の自然現象と考えなければならない。
 
  文 献 原山 智・大藪圭一郎・深山裕永・足立英彦・宿輪隆太(2003)飛騨山脈東半部における前期更新世後半からの傾動・隆起運動.第四紀研究,42巻,127-140頁.
穂高安山岩類
槍-穂高連峰の山稜部を構成し、おもにデイサイト質の溶結凝灰岩からなり、流紋岩質火砕岩、安山岩質溶岩、砕屑岩類をともない、それらに閃緑斑岩や文象斑岩の岩脈・岩床が貫入している。これらは「穂高コールドロン」と呼ばれる南北約19km、東西約6kmの細長いコールドロンを最大層厚3,300m以上で埋積しており、槍-穂高火山の一員として、いわゆる“カルデラ埋積火山岩類”に相当し、そこから溢流したいわゆる“アウトフロー火砕流堆積物”が高山市地域に広く分布する丹生川火砕流堆積物である。
滝谷花崗閃緑岩
高原川支流の蒲田(がまた)川上流域から飛騨山脈の西側に沿って南方へ帯状に延び、山稜上の西穂山荘付近から長野県側の上高地の南方へかけて南北約13km,東西約4kmの規模で分布する。おもに中粒の角閃石黒雲母花崗閃緑岩からなり、岩体の上下方向に岩相・組成上の系統的な変化を示す。穂高安山岩類が埋積したコールドロンにおける火山-深成複合岩体をなし、組成的な類似性をもち、空間的・時間的に密接な関係を示すことで、槍-穂高火山の地下深部におけるマグマ溜りの最終固結物を表わしている。地球上で最も若い露出花崗岩体として知られ、飛騨山脈の上昇隆起にともなって固結後に東へ20°ほど傾動していることで、岩体の天井部から1,800mの深部まで地表で見ることができる。
槍-穂高火山
槍-穂高連峰に分布する穂高安山岩類が、高山市地域に広く分布する丹生川火砕流堆積物の給源にあるコールドロンを埋積した堆積物であり、さらにその西側に分布する滝谷花崗閃緑岩に貫かれ、これらが第四紀前期の火山-深成複合岩体を形成していることで命名された火山である。この火山の活動では、巨大な噴煙にともなわれる降下火砕堆積物は形成されなかったようであるが、丹生川火砕流堆積物の流出に際して上空に噴き上げられた火山灰が「穂高-Kd39」と呼ばれる広域テフラとして房総半島地域にまで飛んでいる


地質年代