地 名 虎渓山永保寺庭園 こけいざんえいほうじていえん
  場 所 多治見市虎渓山町1-40  指定等 国指定名勝/飛騨・美濃紅葉33選
   概 要
   土岐川は多治見市街地へ流れ込むところで“虎渓山”と呼ばれる大きく湾曲した渓谷のような景観を作り出しており、永保寺はその河岸にある臨済宗南禅寺派の寺院である。国宝に指定されている2棟の建物(観音堂・開山堂)のほかに、自然を巧みに利用した見ごたえのある庭園で有名である。この周辺には美濃帯堆積岩類チャートが分布しており、その岩塊が臥龍池(がりょういけ)からそそり立つ崖「梵音巌(ぼんのんがん)」や土岐川対岸にある仏像の頭部を思わせる「仏岩塔」に利用されている。
 
多治見市虎渓山町にある永保寺の庭園
(撮影:鹿野勘次)
 
  ジオ点描
   岩石と結びつけた人工的な景観として寺院に多く見られるのが庭石に絡んだ景観である。例えば“枯山水”として有名な京都・龍安寺の石庭においては、白砂とともに配置されている岩塊はチャートである。京都盆地周辺に分布する岩石という地の利を得た素材を利用している側面もあるが、いろいろな形態を表現できる割れ目の多い材料として利用されているのであろう。
 
  文 献
美濃帯堆積岩類
美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。
チャート
一般には硬く緻密な微粒珪質堆積岩の総称であり、美濃帯堆積岩類を構成する主要な岩石の一つとして特徴的に産する。厚く層状に分布することが多く、これを層状チャートと呼ぶ。一部に古生代ペルム紀のものも含まれるが、ほとんどは中生代三畳紀~ジュラ紀前期に海底に堆積した放散虫などのプランクトンからなる遠洋性の堆積物で、陸源砕屑物をまったく含まない。



地質年代