災害名 根尾白谷の大崩壊 ねおしらたにのだいほうかい
発生年月日 1965(昭40)年9月15日 主要被災地 本巣市根尾小倉地区
 災害要因 奥越豪雨と呼ばれる集中豪雨
概 要
   徳山白谷の大崩壊をもたらした同じ集中豪雨を原因として、その東隣にあたる根尾川支流の根尾白谷源頭の東側尾根部で発生した大規模な崩壊である。推定崩壊土砂は107万㎥といわれており、その大半は白谷中流部に残留したが、一部の土砂が下流に流れて最も近い小倉集落において耕地を埋没させ、土木施設などに被害をもたらした。崩壊した山体を構成している岩石は美濃帯堆積岩類であり、相対的に浸食に強い石灰岩緑色岩(玄武岩質火山岩類)の複合岩体が標高の高い位置に、浸食に弱いメランジュが低い位置にそれぞれ分布しており、浸食に対する抵抗力の違いにより斜面が不安定となって崩壊に至ったと考えられている。ナンノ谷の大崩壊、徳山白谷の大崩壊とともに「揖斐三大崩壊」と呼ばれている。
根尾白谷大崩壊の全景
©砂防学会
 
ジオ点描
【揖斐三大崩壊に共通】 山が大崩壊を起こすとはいっても、1つの山全体が崩れ去るようなことはまずない。セントヘレンズ火山や磐梯山のように火山噴火で山ごと崩れ去ることはあるが、土砂崩れとしての山体崩壊ではほとんどにおいて山体斜面の表面の一部がえぐられるだけにすぎない。それでも莫大な量の土砂が流れ出し、容易に川を堰き止め、とんでもない被害をもたらす。
 
文 献
徳山白谷の大崩壊
根尾白谷の大崩壊と同じ原因で、その西隣にあたる揖斐川支流の徳山白谷において発生した地すべり性の大規模な崩壊で、183万m³にも達する崩壊土量が約200mすべり落ちて白谷を堰き止め、高さ65m、湛水面積約3,000m2の天然ダムを形成した。その後、天然ダムは決壊し、大量の水が流下したが、周辺に人家が無かったため大きな被害にはならなかった。 崩壊した山体を構成している岩石は美濃帯堆積岩類の緑色岩(玄武岩質火山岩類)であり、その内部に多数の断層が走っていることで脆弱化して斜面崩壊をもたらしたと考えられている。ナンノ谷の大崩壊、根尾白谷の大崩壊とともに「揖斐三大崩壊」と呼ばれている。
美濃帯堆積岩類
美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。
石灰岩
美濃帯堆積岩類の中には、金生山の赤坂石灰岩、舟伏山地域の舟伏山石灰岩、石山地域の石山石灰岩などと呼ばれる比較的大きな石灰岩の岩体が分布しており、石灰石資源として採掘されていたり、場所によっては鍾乳洞地帯を形成している。古生代のペルム紀に形成された緑色岩(玄武岩質火山岩類)からなる海山を覆うサンゴ礁を構成していた石灰質生物の遺骸が集積して形成されたものであり、一般に緑色岩と密接にともなって美濃帯堆積岩類の中では最も古い時期に形成された岩石である。
メランジュ
もともとは混合を意味するフランス語であり、いろいろな種類の岩石が複雑に混じりあった地質体を指し、プレートの沈み込みにともなう構造運動で変形した岩石類にあてはめて用いることが多い。美濃帯堆積岩類においては、泥岩の基質中に石灰岩・緑色岩・チャート・珪質泥岩・砂岩などからなるさまざまな大きさの礫あるいは岩塊を異地性岩体として数多く含む地質体である。海洋プレート上に載った堆積物が海溝部で付加される過程のほかに、海底地すべりや断層に沿う破断作用などの過程が複合されて形成されると考えられている。
ナンノ谷の大崩壊
揖斐川支流の坂内川右岸(西岸)ナンノ坂で発生した大規模な崩壊で、根尾白谷の大崩壊、徳山白谷の大崩壊とともに「揖斐三大崩壊」と呼ばれている。崩壊地には美濃帯堆積岩類が分布し、それらの主要な岩相や形成年代の違いにより区分されている地質ユニットが衝上断層によって境界をなしている。それによる斜面の弱体化とともに、浸食に対する抵抗力が異なる地質体が境していることで重力不安定がもたらされ、これらが複合的に作用して半円状の高さ約60m、幅約300mの滑落崖が形成された。153万m³の推定崩壊土砂が坂内川を堰きとめ、幅36~109m、長さ1,500mに及ぶ天然ダムが形成された。このダムは崩壊から6日後に決壊し、死者4名、流出家屋23戸などの大きな災害をもたらした。
緑色岩
美濃帯堆積岩類において、ペルム紀に海底に噴出して形成された火山島を作った岩石であり、枕状溶岩として産することもある。変質して緑色を帯びることが多いためこの名があり、かつては“輝緑凝灰岩”と呼ばれていたこともある。それらが海山を構成し、その上に形成されたサンゴ礁が石灰岩にあたることで、それらと密接にともなって産することが多い。ともに美濃帯堆積岩類において最も古い時期の岩石である。
地質年代