名称 球状岩 きゅうじょうがん
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場所 飛騨市古川町野口北方の宮川河床
形成時期 不詳
概要    表面あるいは内部で球状の模様を示す岩石は広く球状岩と呼ばれるが、ここでは飛騨帯構成岩類の飛騨変成岩類(ミグマタイト)中に作られている球状の模様を示す岩石を指す。飛騨古川町の「蛤(はまぐり)城(古川城)跡」にある“蛤石”と呼ばれる岩石もこれに該当し、黒色の鉱物と白色の鉱物が同心球状に配列した縞模様を作り、それらが長径7~13cmの球状の紋様をもつ岩石を作っている。この球状岩における“球”の中心部には核となるようなものはなく、中心部と周縁部で鉱物の種類にほとんど差異はない。中心部には白色をなす鉱物(長石類など)が多く、周縁部では黒色をなす鉱物(透輝石など)が多い傾向にあり、それらが同心円状に交互に並んでいたり、黒色の鉱物が中心部から放射状に伸びていることもある。鉱物による球状の模様は、高温状態のかなり強い変成作用のもとでミグマタイトが形成される際に部分的に溶融した液状物質がいろいろな条件下で徐々に冷却しながら固結していくときに形成されたのであろうと考えられているが、ほかに捕獲岩の核成長説や液相中での回転形成説などさまざまな成因が考えられており、かなり動的な環境下で形成されているようである。なお、海外ではこの岩石がナポレオナンの生誕地として有名な地中海のコルシカ島(フランス領)にあり、「ナポレオン石」という名称が付けられている。
ジオ点描    通常では見かけないような特異なすがたをみせる岩石は、通常とは異なる環境下で形成されたと考えるのが普通であろう。高温のマグマ(液体)が単純に冷却していけば結晶(個体)が生まれ、それらが雑然と集まって火成岩となる。それがどのような形態であれ、規則的に並んで集まる場合は単純な冷却作用以外の何らかの作用が働いていると考えてよいはずである。
文献
  • 野沢 保(1969)飛騨変成帯の球状岩.岩石鉱物鉱床学会誌,61巻,181-193頁.
  • 野沢 保・下坂康哉・石原哲弥・下畑五夫(1978)飛騨古川町の蛤石,地質ニュース,290号,23-25頁.
  • 写真 飛騨市古川町野口北方の宮川河床に露出する球状岩
    (撮影:岩田 修)
    写真 飛騨市古川町の古川城址にある蛤石
    (撮影:棚瀬充史)
    ミグマタイト
    岩石標本の大きさにおいて変成岩的な部分と優白質の花崗岩的な部分とが入り混じりあったように見える岩石で、境界が比較的明瞭で角ばった変成岩の岩片を含むもの(アグマタイト)から、境界が不明瞭でほとんど花崗岩と区別できないようなもの(シュリーレン)までさまざまな形態がある。片麻岩と花崗岩が混在して分布するような高温状態の変成作用を受けた地帯にしばしば産出し、花崗岩が変成岩を同化していく過程を示すもの、堆積岩など既存の岩石が変成作用を受けて部分的に溶け出す過程を示すものなどいろいろな成因説がある。
    飛騨帯構成岩類
    美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。



    地質年代