名称 苗木のペグマタイト鉱物 なえぎのぺぐまたいとこうぶつ
地図 地図を見る
場所 中津川市並松
形成時期 白亜紀後期(約6,700万~6,800万年前)
概要    中津川市の苗木・蛭川(ひるかわ)・福岡地区は、滋賀県の田上(たのかみ)地域、福島県の石川地域と並んで日本三大鉱物産地として昔から有名な地域である。この地域における岩体の分布を三次元的にみると、濃飛流紋岩を貫いて苗木花崗岩が巨大な風船状の形態をした岩体を作って分布している。その接触部付近は花崗岩の天井部分にあたり、そこには花崗岩マグマが固結していく最終段階においてH₂Oなど揮発性成分が集まって液体中の泡として空隙が作られている。すなわち、この地域では花崗岩体の天井部として空隙がつくられやすく、そこは結晶が自由成長しやすい場所となっており、それを利用して数cmにも達する正長石、曹長石、煙水晶などの大型結晶が生成されることになる。それらの集合体をペグマタイト (巨晶花崗岩) という。その周囲の液体中にはイオン半径の大きい元素や他の元素と結びつきにくい希元素などが結晶中に納まらない元素として最後まで残されており、そうした元素を含む蛍石・緑柱石・鉄電気石・灰重石・トパーズ(黄玉)などの珍しい鉱物や美しい結晶、希土類元素を含む苗木石などの多種多様な鉱物がペグマタイトの中に形成されていく。これらが鉱物産地となる理由であるが、現在はこれらの鉱物類を野外で採集することがかなり困難になっており、その代わり中津川市鉱物博物館博石館で見ることができる。
ジオ点描    結晶が大きく成長するためにはそれだけの空間が確保されていなければならない。固体中よりは液体中、液体中よりは気体中の方が自由な空間が用意されていることになる。結晶は基本的にマグマ(液体)の中から生まれるから、そこに限られた条件が揃うことで気泡(気体)が用意されるような環境が作られ、そうした環境において大型結晶が生まれることになる。
文献
  • 加藤 昭・松原 聰・野村松光(1979)鉱物採集の旅5 東海地方をたずねて.築地書館.
  • 写真 中津川市苗木における苗木花崗岩のペグマタイト
    (岐阜県博物館所蔵、撮影:棚瀬充史)
    写真 中津川市並松において苗木花崗岩のペグマタイトに産する結晶形態の複雑な蛍石
    (撮影:上原大二郎)
    苗木花崗岩
    中津川市苗木付近を中心に濃飛流紋岩の分布域の南部に広く分布し、中央部においても濃飛流紋岩の地下に広く伏在して分布する。濃飛流紋岩の少なくともNOHI-5までを貫き、NOHI-3、NOHI-4およびNOHI-5と火山-深成複合岩体を形成していると考えられている。塊状で、一部斑状の細粒~粗粒黒雲母花崗岩および角閃石含有黒雲母花崗岩からなり、放射線で黒~暗灰色になった石英を多く含み、脈状ないし晶洞状のペグマタイトに富むことを特徴とする。
    濃飛流紋岩
    濃飛流紋岩は、岐阜県の南東端にあたる恵那山(標高2191m)付近から北部の飛騨市古川町付近へかけて、幅約35km、延長約100kmにわたり北西~南東方向にのび、岐阜県の約1/4の面積を占める巨大な岩体である。この岩体を構成する岩石のほとんどは、火砕流として流れ出た火山砕屑物がたまって形成された火砕流堆積物からなり、しかもその大部分は堅硬に固結した溶結凝灰岩になっており、厚さ数百mで、水平方向へ20~60kmの広がりをもち、岩相・岩質が類似した火山灰流シートとして何枚にもわたって重なりあっている。それらは大きく6つの活動期(NOHI-1~NOHI-6)に区分されており、岐阜県内にはNOHI-6だけが分布しない。これらの火山岩類には花崗岩類が密接にともなわれ、それらを含めて大きく2期(第1期火成岩類・第2期火成岩類)に分けられる火山-深成複合岩体を形成している。第1期の活動は白亜紀後期の約8,500万~8,000万年前にあり、NOHI-1とNOHI-2の活動と引き続く花崗岩類の活動があった。第2期の活動は約7,500万~6,800万年前にあり、NOHI-3~NOHI-5(おそらくNOHI-6)の活動と引き続く花崗岩類の活動があった。これらは活動の場所を南部から北部へと移しながら巨大な火山岩体を作り上げた。
    ペグマタイト
    花崗岩質の岩石に多く形成されるため巨晶花崗岩ともいう。花崗岩とほぼ同じ鉱物からなり、それらが著しく粗粒で、長石類と石英が文象構造をなしている岩石で、マグマが冷却固結していく過程で温度や圧力が低下し、鉱物中に取り込まれにくかったガス成分等がマグマ溜りの天井部に集まって空洞を形成し、そこに大きな結晶を成長させることで形成される。空洞内には鉱物に取り込まれずにマグマ中に残された元素が結びついて希産鉱物を作ることが多く、宝石あるいは鉱物標本として採取されたりする。
    中津川市鉱物博物館
    苗木花崗岩が広く分布する中津川市苗木地域は、滋賀県の田上(たなかみ)地域、福島県の石川地域と並んで日本三大鉱物産地として知られている。地元出身の長島乙吉・弘三親子が蒐集した標本「長島鉱物コレクション」を中津川市が寄贈を受け、それを基礎にして建設された博物館である。苗木地域から産出した鉱物と花崗岩を中心に中津川市周辺の地質をわかりやすく紹介した常設展示は見ごたえがある。企画展示、講演会、博物館教室、野外観察会などが随時開催され、鉱物の博物館としてきわめて貴重な存在となっている。
    博石館
    旧蛭川村地域は、苗木花崗岩を石材として盛んに採掘していたり、その中に含まれている珍しい鉱物の採集地として広く知られていた。こうした背景のもとで建設された“石”に関する博物館である。地元から産出する鉱物を中心に世界各地の珍しい鉱物が展示されている「鉱物博物館」や地元産の蛭川みかげを使った「ピラミッド」(1辺23m、高さ14.6m)などがある。
    地質年代