化石名 放散虫 ほうさんちゅう
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地層名 美濃帯堆積岩類(岐阜市 金華山
対象時代 石炭紀~ジュラ紀
概要    海生の動物プランクトンとして5億数千万年前のカンブリア紀から現在に至るまで生息している単細胞生物で、珪酸(SiO₂)成分からなる0.1~0.2mmほどの大きさの骨格を持つことで微化石として残されていることが多い。生息した時代により骨格の形態が異なり、その変化が速いために重要な示準化石となる。チャートは放散虫の骨格が堆積することで形成された岩石であり、その中から微小な放散虫を取り出すには、チャートをフッ酸(HF)という強力な酸で腐蝕させ、溶け残った残渣から実体顕微鏡下で取り出す。それを走査型電子顕微鏡を用いて骨格の形態や微細な構造を観察することで時代決定を行っていく。その技術が1980年代になってから確立したことにより、美濃帯堆積岩類では薄いチャート層の単位で形成時代の決定がなされるようになり、しかもその精度はそれまでおもにフズリナ化石などで決められていた形成時代とは比べものにならないほどきわめて高くなった。あわせて生まれた付加体堆積物という新しい概念とかみ合って日本列島の地質研究が著しく進展し、こうした状況を「放散虫革命」という。
ジオ点描    大型動物化石においてはその骨や歯が単独で産出するだけでも貴重であるのに対して、放散虫をはじめとして微化石と呼ばれる化石群は密集して大量に産出することが常である。大型動物化石とは明らかに異なる産状で埋積されていることになり、微化石の死骸が大量にもたらされるようになるためには一時期に大量に死滅するような“事件”があり、それらが砂粒や小礫のような砕屑物として供給されたことになる。
文献
  • Niwa,M., Kashiwagi,K., Tsukada,K.,(2003) Jurassic, Triassic and Permian radiolarians from the Hirayu complex of the Mino Belt in the Nyukawa-Hirayu area, Gifu Prefecture, central Japan. Journal of Earth and Planetary Sciences, Nagoya University, Vol. 50, p.13-42.
  • 八尾 昭(2019)20 世紀後半における日本の中・古生代放散虫研究の進展.地質調査研究報告,70巻,第1/2号,249–260頁.
  • 写真 高山市丹生川町地域の美濃帯堆積岩類から産出した放散虫化石の例(各写真のスケールは0.1mmに相当)
    (Niwa et al.,(2003)より引用:©名古屋大学理学部地球惑星科学科)
    写真 木曽川・飛騨川流域に分布するジュラ紀中期の珪質泥岩から産出した岐阜県内の地名をもつ放散虫化石の例(左: Unuma echinatus,右:Dictyomitrella(?)kamoensis)
    (名古屋大学博物館収蔵資料の放散虫化石画像データベースから許可を得て引用)
    示準化石
    地質時代を特定できる化石のことで、標準化石ともいう。こうした化石となる条件には、個体数が多いこと、地理的な分布が広いこと、特定の形態をもった状態での生存期間が短いことなどが挙げられ、一般には同一系統内では分類単位が大きいほど特定できる時間の幅が長くなる。こうした化石が含まれることで、離れた地域の間で地層の対比と時間の同定が可能となり、「地層同定の法則」が成り立つ。
    金華山
    岐阜市のランドマーク的な存在となっている標高329mの山であり、頂上付近に岐阜城を載せる。初夏になると山体全体にツブラジイの花が咲くことで金色に輝くことから山名がついたとされており、かつては「稲葉山」と呼ばれた。ほぼ全山が美濃帯堆積岩類のチャートで構成されており、石英と同じ成分からなるかなり硬い岩石であるために浸食に対する抵抗力が強く、相対的に高い尾根を作りやすい。それが長良川などにより周囲を削られたことで平地部からそそり立つようにそびえる山となった。このチャートは含まれる放散虫化石から古生代ペルム紀後期~中生代三畳紀中期(約2億6000万~2億3000万年前) にできたことが分かっている。
    フズリナ
    古生代の石炭紀~ペルム紀にいた石灰質の殻をもつ有孔虫であり、温暖な地域の海底付近に棲息し、当時のサンゴ礁と考えられている石灰岩中に多量に含まれることで知られる。単細胞の原生動物であるが、進化の過程で複雑な殻の形態をもつようになり、それが示準化石として重要な役割を演じている。岐阜県地域では美濃帯堆積岩類の石灰岩中に頻繁に含まれ、なかでも大垣市の金生山に分布する赤坂石灰岩に含まれるフズリナは、ギュンベルにより1874(明7)年に日本産化石に関する最初の論文として報告されたものであり、そのためにここが「日本の古生物学発祥地」とされている。
    チャート
    一般には硬く緻密な微粒珪質堆積岩の総称であり、美濃帯堆積岩類を構成する主要な岩石の一つとして特徴的に産する。厚く層状に分布することが多く、これを層状チャートと呼ぶ。一部に古生代ペルム紀のものも含まれるが、ほとんどは中生代三畳紀~ジュラ紀前期に海底に堆積した放散虫などのプランクトンからなる遠洋性の堆積物で、陸源砕屑物をまったく含まない。

    地質年代
    美濃帯堆積岩類
    美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。