化石名 アンモナイト -
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地層名 美濃帯堆積岩類(郡上市大和町徳永)
対象時代 ジュラ紀中期
概要    巻貝の形態をもつが、イカやタコの祖先となる頭足類の化石であり、古生代から中生代白亜紀末まで海洋に広く生息し、おもに繁栄した時期である中生代を代表する化石としてよく知られている。岐阜県地域では手取層群から産出するものが有名であるが、繁栄時期からすれば美濃帯堆積岩類の中から産出してもおかしくないはずである。ところがその産出例はわめて少なく、産状が明確にされている例は1例しかない。それは郡上市大和町の長良川河床に露出している砂岩泥岩互層の細粒砂岩部から発見されたもので、ジュラ紀中期を示す北方系の要素があるKeppleriteと呼ばれるアンモナイトである。産状が明確でない例としては、本巣市根尾門脇(かどわき)の尾砂谷(おさごだに)に分布する泥質岩層中からジュラ紀前期を示すCanavariaと呼ばれるアンモナイトが発見されている。
ジオ点描    扁平な巻貝のようならせん状の殻をもつ化石として、実物はともかく写真や絵では誰もが見たことのあるきわめて有名な化石である。世界中の海で繫栄していた生物でありながら、これが繁栄した時期に形成された美濃帯堆積岩類からは例外的に産出するだけである。これには同岩類が付加体堆積物であり、複雑に混じりあった地質体を構成し、整然と順番に重なった地層ではないことが関係していよう。
文献
  • Sato,T.・Kasahara,Y.・Wakita,K.(1985)Discovery of a Middle Jurassic Ammonite Kepplerites from the Mino Belt, central Japan. Trans.Proc.Palaeont.Soc.Japan,N.S. No.139, 218-221.
  • 佐藤 正・蜂屋喜一郎・水野吉昭(2003)岐阜県根尾村の美濃帯から下部ジュラ系(プリーンスバッキアン上部)アンモナイトCanavariaの発見.瑞浪市化石博物館研究報告,30号,147-149頁.
  • 写真 郡上市大和町徳永の長良川河床から産出したアンモナイト
    (岐阜県博物館所蔵,撮影:棚瀬充史)
    写真 準備中
    手取層群
    手取層群は、福井県東部から石川県南東部、岐阜県北部、富山県南部へかけての地域に分かれて分布し、中生代のジュラ紀前期から白亜紀前期にかけての時代に形成された海成~陸成の地層である。おもに砂岩・泥岩・礫岩などの砕屑岩類からなり、恐竜などの爬虫類化石を産出することで知られる。大きくみると浅海成層から陸成層へと移り変わっていることで、これまでは3つの亜層群(九頭竜・石徹白(いとしろ)・赤岩亜層群)に区分されていた。しかし、これら3亜層群の区分に関しては、形成時代の見直しが化石(特にアンモナイト化石)に基づいて進められてきたことで、堆積環境の変遷も含めていくつかの見解が示されており、それにともなっていくつかの層序区分の考えが示されてきた。ここではこれまでに一般的に用いられてきた3亜層群の名称をそのまま用い、形成時期に重点をおいた区分として、九頭竜・石徹白亜層群の境界をほぼ中生代ジュラ紀と白亜紀の境界(約1億4,550万年前)、石徹白・赤岩亜層群の境界をほぼ白亜紀前期の約1億2,500万年前として表現する。ただし、分かれて分布する個々の地域すべてから時代決定に有効な化石が産出するわけではなく、年代測定の問題も含めて課題の残された地域もあるため、ここでは現段階での資料に基づいて区分し、時代不明の未区分層(Tu)として扱う地域もある。岐阜県地域において区分できる地域では、九頭竜亜層群は分布せず、石徹白・赤岩亜層群が分布し、それぞれ石徹白亜層群相当層、赤岩亜層群相当層として記述する。




    地質年代
    美濃帯堆積岩類
    美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。