断層名 跡津川断層(まぼろしの断層崖) あとつがわだんそう
(まぼろしのだんそうがい)
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場所 飛騨市宮川町林
概要    現在の飛騨市立宮川小学校は2011(平23)年4月に同市立宮川中学校が同市立古川中学校に統合移転した跡を利用している。その敷地北側に沿って旧宮川中学校の体育館のすぐ脇に高さ約5m、長さ約80mの崖があった。右横ずれ運動の卓越する断層として知られている跡津川断層においても縦ずれ運動があり、この崖は各地に形成された断層崖の一つであった。しかし、この崖は国道360号のバイパス設置(1996年(平8)年に供用開始)にともなう工事によってすべて削り取られてしまい、“まぼろしの断層崖”にされてしまった。その原因が自然ではなく人間であることが残念である。
ジオ点描    横ずれ断層では目印にあたるものがなくなると移動量ばかりでなくその存在すらわからなくなることもある。縦ずれ断層では降雨などにより断層崖が削られて崩されていくが、根尾谷断層における「水鳥の断層崖」のように100年以上経った現在でも崖として残されている。“まぼろしの断層崖”もそのままにしておけばあと100年や200年は立派な断層崖として残されて後世に伝えられるものであった。
文献
  • 写真 宮川町野首にあった跡津川断層の断層崖(1977年頃撮影)
    (撮影:寺門隆治)
    写真 準備中
    跡津川断層
    跡津川断層は、富山県の立山付近から南西へ向かって、飛騨市神岡町、宮川町、河合町を通り抜け、白川村の天生(あもう)峠付近までの全長約60kmにも及ぶ大断層であり、岐阜県における大規模な活断層系である阿寺断層系や根尾谷断層系などとともに日本を代表する活断層系の一つである。人工衛星画像でもその直線状の谷地形が明瞭に識別でき、大きく見ると一本の断層線として示されるが、実際には数本の断層が平行して走っていたり、枝分かれしたりしている。河川流路の折れ曲がりや断層崖などの断層地形が各所に残り、断層上のくぼ地には池ヶ原湿原や天生湿原のような湿原が形成されている。この断層は40万~70万年くらい前から活動を始めたとされているが、詳しいことはまだわかっていない。江戸時代末期の1858(安政5)年に起きた飛越地震は、跡津川断層が動いたことで起きたもので、断層沿いに多大な被害をもたらした。
    根尾谷断層
    根尾谷断層は、全長約80kmにわたり複数の活断層群からなる根尾谷断層系のうち、岐阜・福井県境にある能郷(のうご)白山(標高1617m)付近からほぼ根尾川沿いに南下し、岐阜市北端部に至る約35kmの長さをもつ活断層である。全体として左横ずれ変位が卓越し、北東側が沈下する縦ずれ変位をともなう運動を起こしている。根尾谷断層系のほぼ中央において比較的活発に動いてきた断層であることもあり、しばしば「根尾谷断層系」とまったく同義に使われて混乱を招いており、厳密には明確に区別して扱う必要がある。1891(明24)年にとりあえず最後の活動を起こして濃尾地震をもたらし、その際に形成された地表の変位を「根尾谷地震断層」と呼び、その代表例が国の特別天然記念物に指定されている通称「水鳥(みどり)の断層崖」である。これも単に“根尾谷断層”と呼ばれることが多く、日本地質学会もここを“根尾谷断層”として「日本の地質百選」に選定している。
    水鳥の断層崖
    根尾谷断層が1891(明24)年に動いたことで形成された根尾谷地震断層を代表する場所であり、国の特別天然記念物「根尾谷断層」として指定されており、約500mにわたり約6mの縦ずれにより形成された断層崖である。根尾谷断層における主要な動きは左横ずれであり、縦ずれがあった場合にはそのほとんどで南西側が隆起している。ところが、この崖では逆に北東側が隆起しており、同時に2~3mの左横ずれも起こした。この付近では断層崖を形成した断層の東側にもう一本の断層が約400m離れてほぼ平行に走り、それらがともに左横ずれを起こすと、断層にはさまれた部分では北西と南東へ向かう動きが衝突することになる。それを解消するために、東西方向の断層をつくって地盤を上昇せざるを得なくなる。この断層崖は濃尾地震断層系を象徴する場所になっているが、全体としてみるとかなり局地的で特殊な原因で起こった縦ずれ運動で形成されたことになる。なお、この断層崖の地下の様子は「地震断層観察館」で見学できる。


    地質年代