温泉名 渡合温泉 どあいおんせん
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所在地 中津川市加子母渡合4556
源泉最高温度 11.2℃(平21)
泉質 二酸化炭素泉
pH 7.8
概要    東濃地方において他の温泉がすべて花崗岩からの放射性元素に由来する放射能泉であるのに対して、この温泉だけは濃飛流紋岩に由来する二酸化炭素(炭酸)泉である。濃飛流紋岩のNOHI-3およびNOHI-4の溶結凝灰岩が厚く堆積している場所で、阿寺断層系の断層と直交する北東~南西方向に延びる断層にともなわれる破砕帯に沿って湧出していると考えられる。ただし、主成分の二酸化炭素(炭酸ガス)の起源については不明である。付知峡の最奥部にある一軒宿で、源泉の発見は江戸末期~明治とされ、1959(昭34)年までは森林鉄道が近くまで通っていたが、現在は林道だけが交通路である。自家発電装置による電気だけのため夜間はランプを使用する“ランプの宿”として知られている。
ジオ点描    県内に湧出する炭酸泉としては渡合温泉のほかにも飛騨小坂地域の湯屋温泉下島温泉がある。これらに共通している特徴は、濃飛流紋岩がかなり厚く堆積している地域においてそれらの中に延びる断層に沿って湧出していることである。こうした地質環境に炭酸泉が湧出する理由として濃飛流紋岩にしばしば炭酸塩鉱物が晶出していることが関係しているかもしれないが、詳細は不明である。
写真 加子母渡合の奥付知峡にある渡合温泉
(撮影:鹿野勘次)
写真 準備中
濃飛流紋岩
濃飛流紋岩は、岐阜県の南東端にあたる恵那山(標高2191m)付近から北部の飛騨市古川町付近へかけて、幅約35km、延長約100kmにわたり北西~南東方向にのび、岐阜県の約1/4の面積を占める巨大な岩体である。この岩体を構成する岩石のほとんどは、火砕流として流れ出た火山砕屑物がたまって形成された火砕流堆積物からなり、しかもその大部分は堅硬に固結した溶結凝灰岩になっており、厚さ数百mで、水平方向へ20~60kmの広がりをもち、岩相・岩質が類似した火山灰流シートとして何枚にもわたって重なりあっている。それらは大きく6つの活動期(NOHI-1~NOHI-6)に区分されており、岐阜県内にはNOHI-6だけが分布しない。これらの火山岩類には花崗岩類が密接にともなわれ、それらを含めて大きく2期(第1期火成岩類・第2期火成岩類)に分けられる火山-深成複合岩体を形成している。第1期の活動は白亜紀後期の約8,500万~8,000万年前にあり、NOHI-1とNOHI-2の活動と引き続く花崗岩類の活動があった。第2期の活動は約7,500万~6,800万年前にあり、NOHI-3~NOHI-5(おそらくNOHI-6)の活動と引き続く花崗岩類の活動があった。これらは活動の場所を南部から北部へと移しながら巨大な火山岩体を作り上げた。
溶結凝灰岩
火砕流によりもたらされた堆積物が溶結作用を受けると、その程度により強溶結、弱溶結、非溶結凝灰岩となり、一般には強溶結凝灰岩をさしていう。おもに火山灰が集まって形成された岩石ではあるが、強く圧密化した岩石となり、きわめて堅硬な岩石となる。
阿寺断層系
阿寺断層系は、中津川市馬籠(まごめ)付近から北西へ向かって、同市坂下、付知町、加子母(かしも)を経て、下呂市萩原町の北方へ至る全長約70kmにも及ぶ日本でも第一級の活断層系である。ほかの大規模な活断層系と同様に、複数の断層が平行にあるいは枝分れして走っている。それらのうち、おおよそ中津川市と下呂市の境界にある舞台峠付近より南に分布する断層群を阿寺断層と呼び、それより北に分布する断層群にはそれぞれ別の名称がつけられている。大きくみると、阿寺断層系は、その北東側にある標高1500~1900mの山稜部を持つ比較的なだらかな阿寺山地とその南西側にある標高1000m前後の美濃高原との境界部にある断層帯で、両者はもともと一続きの地形であり、地形上の高度差700~800mがそのまま断層による縦ずれ移動量を示すが、それよりも10倍近くの大きさで左横ずれ移動量をもち、それは断層を境に河川の流路が8~10kmも隔てて屈曲していることに表れている。
付知峡
阿寺(あてら)断層がその北東側を500~800mほど上昇させたことにより形成された阿寺山地の中を付知川が深く刻み込んだことで作られた峡谷である。そこを構成する岩石はすべて濃飛流紋岩の溶結凝灰岩であり、新鮮で硬固な岩盤を刻んで深い渓谷をつくり、“青川”とも呼ばれるほど澄み切った急流となって流れ下っている。不動滝(落差約8m)、観音滝(同約30m)、仙樽(せんだる)の滝(同約15m)、高樽(たかだる)の滝(同約30m)などの数多くの瀑布を作っており、県を代表する紅葉の名所としても知られる。ここから長野県側の王滝村にかけての地域には、江戸時代から保護政策下におかれてきた手つかずのヒノキの原生林が残されている。
湯屋温泉
濃飛流紋岩のNOHI-3に属する下呂火山灰流シート内にあり、おそらく北東~南西方向に延びる断層沿いに湧出していると考えられる。別名「サイダー泉」と呼ばれるほど炭酸泉としての特徴をもち、飲用することで胃腸病によく効くとされ、県内で最初に飲用許可が出た温泉でもある。炭酸泉は火山活動の末期にみられることがあるとされるが、御嶽火山との直接的な関係はない。鉄分を含むことで、空気に触れて赤褐色を呈する。北東側の尾根を隔てた反対側にほぼ同じ地質環境・泉質をもつ下島(したじま)温泉がある。
下島温泉
濃飛流紋岩のNOHI-3に属する下呂火山灰流シートおよびNOHI-4に属する高樽火山灰流シートの分布域にあり、おそらく両者を境する北西~南東方向に延びる断層沿いに湧出していると考えられる。遊離炭酸を多く含むことを特徴とし、湯屋温泉の泉質によく似ており、古くから「傷湯」の異名を持つ。
地質年代