温泉名 下島温泉 したじまおんせん
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所在地 下呂市小坂町落合
源泉最高温度 46.0℃(平20)
泉質 炭酸水素塩泉・塩化物泉
pH 6.7
概要    御嶽火山から流れ出た溶岩流が作り出した巨大な岩壁「巌立」やその周辺の渓谷「巌立峡」の入口にある温泉である。ただし御嶽火山の活動との直接的な関係はない。濃飛流紋岩のNOHI-3に属する下呂火山灰流シートおよびNOHI-4に属する高樽火山灰流シートの分布域にあり、おそらく両者を境する北西~南東方向に延びる断層沿いに湧出していると考えられる。いくつかの泉質がみられるが、遊離炭酸を多く含む炭酸泉(サイダー泉)がよく知られており、これは近傍にある湯屋温泉の泉質によく似ている。開湯は約400年前とされ、古くは傷に対する効能が高い温泉として「傷湯」の異名を持つ湯治場であった。ここには1995(平5)年に旧小坂町営(のちに下呂市営)として日帰り入浴施設「ひめしゃがの湯」が開設されており、無色透明で湧出してすぐに茶褐色に変色する泉質の炭酸泉が湧き出ており、それは施設の玄関前に設置されている飲泉場で観察できる。この施設は2019(令和元)年に民営化されて運営されており、2023(令4)年2月からいったん休業となったが、2024(令5)年6月から営業が再開されている。
ジオ点描    源泉最高温度が46.0℃という高温であるが、その理由はよくわかっていない。基本的には源泉温度が15~18℃であり、古くから鉱泉と呼ばれてきた湧水に該当する「温泉」である。そのなかで遊離炭酸を多く含む炭酸泉としての特徴をもつ。泉温が高くなると二酸化炭素が溶け込みにくくなるため、炭酸泉は火山活動に関連した温泉よりは泉温の低い非火山性温泉に多い。
写真 小坂町落合にある下島温泉「ひめしゃがの湯」
(撮影:小井土由光)
写真 下島温泉「ひめしゃがの湯」にある源泉の飲泉場
(撮影:小井土由光)
濃飛流紋岩
濃飛流紋岩は、岐阜県の南東端にあたる恵那山(標高2191m)付近から北部の飛騨市古川町付近へかけて、幅約35km、延長約100kmにわたり北西~南東方向にのび、岐阜県の約1/4の面積を占める巨大な岩体である。この岩体を構成する岩石のほとんどは、火砕流として流れ出た火山砕屑物がたまって形成された火砕流堆積物からなり、しかもその大部分は堅硬に固結した溶結凝灰岩になっており、厚さ数百mで、水平方向へ20~60kmの広がりをもち、岩相・岩質が類似した火山灰流シートとして何枚にもわたって重なりあっている。それらは大きく6つの活動期(NOHI-1~NOHI-6)に区分されており、岐阜県内にはNOHI-6だけが分布しない。これらの火山岩類には花崗岩類が密接にともなわれ、それらを含めて大きく2期(第1期火成岩類・第2期火成岩類)に分けられる火山-深成複合岩体を形成している。第1期の活動は白亜紀後期の約8,500万~8,000万年前にあり、NOHI-1とNOHI-2の活動と引き続く花崗岩類の活動があった。第2期の活動は約7,500万~6,800万年前にあり、NOHI-3~NOHI-5(おそらくNOHI-6)の活動と引き続く花崗岩類の活動があった。これらは活動の場所を南部から北部へと移しながら巨大な火山岩体を作り上げた。
下呂火山灰流シート
濃飛流紋岩の岩体南縁部を除くほぼ全域にわたり分布し、NOHI-3の主体をなすとともに濃飛流紋岩の中で最大規模の火山灰流シートであり、最大層厚は1,000m以上もある。下部で流紋岩質の、上部で流紋デイサイト質の溶結凝灰岩からなり、岩体北部ではそのさらに上部に流紋岩質の溶結凝灰岩をともなう。これらの岩相間の関係は漸移的であり、場所によっては繰り返して出現することもある。流紋岩質の溶結凝灰岩は、径4~6mmの粗粒の斜長石・石英・カリ長石を多量に含み、苦鉄質鉱物として黒雲母・角閃石・不透明鉱物をを含む。長径数~十数cmの大型の本質岩片を多量に含む。流紋デイサイト質の溶結凝灰岩は、径3~5mmの粗粒の斜長石・石英を多く含み、苦鉄質鉱物として黒雲母・角閃石・輝石・不透明鉱物を比較的多く含む。いずれの溶結凝灰岩も長径10cmを超える大型の本質岩片を多量に含み、その中に径1cmを超える粗粒斜長石斑晶を多量に含むことを特徴とする。上部の流紋岩質溶結凝灰岩は下部のものに比べて本質岩片が径1cmほどと小型になる。
高樽火山灰流シート
濃飛流紋岩の岩体南部を除くかなり広範囲にほぼ連続して分布し、NOHI-4の主体をなす火山灰流シートである。層厚は約700mである。全体にきわめて均質な流紋岩質の溶結凝灰岩からなり、径2㎜前後の自形性のよい石英結晶を多量に含むこと、基質中に細かな結晶片をあまりともなわず、組成のわりに苦鉄質鉱物(角閃石・黒雲母・不透明鉱物)と斜長石を多く含むことを特徴とする。長径5㎝前後の本質岩片を多量に含み、しばしば明瞭なユータキサイト構造を示す。石質岩片をほとんど含まない。
湯屋温泉
濃飛流紋岩のNOHI-3に属する下呂火山灰流シート内にあり、おそらく北東~南西方向に延びる断層沿いに湧出していると考えられる。別名「サイダー泉」と呼ばれるほど炭酸泉としての特徴をもち、飲用することで胃腸病によく効くとされ、県内で最初に飲用許可が出た温泉でもある。炭酸泉は火山活動の末期にみられることがあるとされるが、御嶽火山との直接的な関係はない。鉄分を含むことで、空気に触れて赤褐色を呈する。北東側の尾根を隔てた反対側にほぼ同じ地質環境・泉質をもつ下島(したじま)温泉がある。
御嶽火山
岐阜・長野県境にあって南北約20km、東西約15kmの範囲に広がる山体をなす。それぞれ数万年ほどの活動期間をもつ古期御嶽火山と新期御嶽火山からなり、両者の間に約30万年にわたる静穏期があり、現在も約3万年にわたる静穏期にあたっている。
巌立
御嶽山の西側斜面を流れ下る濁河(にごりご)川と椹(さわら)谷の合流点にある高さ約72m、幅約120mの大岩壁である。御嶽火山噴出物のうち新期御嶽火山を構成する摩利支天火山群に属する噴出物で、約54,000年前に約17km流れ下った安山岩質の溶岩流の末端部にあたる。岩壁は、溶岩が冷えて固まったときにできる柱状節理からなり、太さ数十cmの柱が並んでいるように見える。付近一帯は巌立峡と呼ばれ、三ツ滝など数多くの滝をもつ峡谷として知られている。
巌立峡
岐阜県指定の天然記念物「巌立」を中心に、その付近一帯の濁河(にごりご)川あるいは椹(さわら)谷に沿う峡谷である。滝めぐりが楽しめ、そのための遊歩道が整備されており、秋には紅葉の名所としても知られる。巌立も含めて、その景観の主人公となる滝は、新期御嶽火山を構成する摩利支天火山群(約6万~2万年前)に属する溶岩流あるいはその基盤をなす濃飛流紋岩の溶結凝灰岩にかかるものである。
地質年代