温泉名 新穂高温泉 しんほたかおんせん
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所在地 高山市奥飛騨温泉郷新穂高・蒲田・中尾
源泉最高温度 84.5℃(平20)
泉質 硫黄泉、単純泉、炭酸水素塩泉
pH 幅あり
概要    飛騨山脈の槍-穂高連峰から流れ出る蒲田(がまた)川は栃尾温泉で高原川に合流する。その蒲田川沿いの広範囲に広がる温泉群の総称である。最奥部にあたる新穂高ロープウェー乗車口周辺にある「新穂高」、下流側にあたる栃尾温泉と蒲田トンネルとの間にある「蒲田」、蒲田川南東側の高台にある「中尾」の3地区に分かれて分布し、それぞれ源泉が異なる。ほとんどが笠ヶ岳コールドロンを構成する火山岩類や花崗岩類の分布域あるいはそれらを薄く覆う第四紀堆積層の分布域にあるが、いずれの地区においても高温の豊富な湯量が得られることから焼岳火山群としては最新の活動をしている焼岳火山を熱源としていると考えられる。ただし、とりわけ「新穂高」・「中尾」地区においては比較的近傍に槍-穂高火山コールドロンを構成する滝谷花崗閃緑岩がまだ十分に熱い深成岩体として分布していることから、それが熱源の候補となる可能性もある。なお、「中尾」地区は昭和に入ってから源泉が発見された比較的新しい温泉であり、とりわけ高温の温泉や蒸気が豊富に出ることで地熱発電等の開発が進められようとしている。
ジオ点描    温泉と火山は切っても切れない関係にある。それは誰も疑うことのない“釜焚き役”が準備されているからである。とはいえ火山体であればどこにでも温泉が湧出しているわけではない。やはり地下水が必要であり、それをもたらす水脈が作られていなければならない。それは非火山地帯における温泉でも同じであり、強いていえば火山地帯では熱源だけに恵まれているに過ぎないことになる。
写真 中尾温泉の源泉井の1つ
(撮影:小井土由光)
写真 焼岳山頂からみた中尾温泉
(撮影:鹿野勘次)
笠ヶ岳コールドロン
飛騨山脈の笠ヶ岳(標高2898m)周辺に分布し、これまで「笠ヶ岳流紋岩類」と呼ばれてきた火山岩類に対して、それらの形成過程を強調して与えられている名称である。もともとの岩体はほぼ完全な楕円形状をしていたらしく、引き続く深成活動や後からの火成活動により現在はその東半分が失われており、東西約12km×南北約11kmの規模で分布している。二重の環状断層で区切られた二重陥没構造をもつコールドロンからなり、隆起量の大きい地域に分布しているためにその内部がよく観察できる。おもに流紋岩質~流紋デイサイト質の溶岩・溶結凝灰岩からなり、成層した砕屑岩やごく少量の安山岩質火砕岩をともなう。下位から、中尾層、笠谷層、穴毛谷層、笠ヶ岳山頂溶結凝灰岩層に区分され、これらはほぼ水平な堆積構造を示し、積算層厚3,000m以上、総体積400km³以上の岩体を形成している。環状断層に沿って花崗斑岩の岩脈が貫入し、とりわけ外側コールドロンの縁の岩脈は連続性がきわめて良く、典型的な環状岩脈をなしている。岩体北東部で奥丸沢花崗岩に貫入され,熱変成作用を受けている。
焼岳火山群
飛騨山脈の南部にあって、焼岳火山を主峰とする複数の火山体の集まりであり、乗鞍火山帯の中で最近1万年間では最も活発な活動を続けている。形成時期により約12万~7万年前の旧期焼岳火山群と約3万年前以降の新期焼岳火山群に大別され、前者には岩坪山・大棚火山、割谷山火山が、後者には白谷山火山、アカンダナ火山、焼岳火山がそれぞれ該当する。全体に斜長石と角閃石の斑晶が目立つ安山岩質~デイサイト質の溶岩ドーム、厚い溶岩流、泥流堆積物、火砕流堆積物からなり、火砕流堆積物はすべて溶岩ドームの破壊によってできたblock and ash flow堆積物であり、激しい爆発的な噴火活動をほとんど行なっていない。
焼岳火山
焼岳火山群の新期焼岳火山群に属する火山体で、その中で最も新しく、現在も活動中の火山である。焼岳(標高2455m)を中心として、いくつかの溶岩、溶岩ドームとそれらにともなわれる火砕岩類からなる。現在の山頂部を作る溶岩ドームは約2,300年前に形成されたものである。歴史時代に入ってからの活動としては、1907(明40)年から1939(昭14)年まで水蒸気爆発が活発に繰り返され、特に1915(大4)年に水蒸気爆発にともない発生した泥流が梓川をせき止めて大正池を作ったことは有名である。最新の活動については事項解説『災害』の項目「焼岳火山噴火」を参照のこと。
槍-穂高連峰
飛騨山脈において北の槍ヶ岳(標高3180m)から南の前穂高岳(同3090m)までの直線距離で約7kmの範囲であり、ここに3000m以上の峰々がほぼ南北方向に並ぶ。大岩壁・岩峰などの迫力ある山岳地形に加えて、氷河地形が随所にみられる。この山稜には尾根付近の高所に穂高安山岩類、山腹の低所に滝谷花崗閃緑岩がそれぞれ分布し、ともに176万年前から80万年前というきわめて新しい時代に形成された岩石である。滝谷花崗閃緑岩が上昇しながら貫入し、山塊が西側を高くして東側を低くするような傾動隆起を起こしたことで3000m級の峰々がもたらされた。その時期は約130万年前以降のごく最近のことである。
栃尾温泉
高原川が蒲田(がまた)川と合流する場所にあり、両河川沿いに広がる奥飛騨温泉郷の中にあって規模も小さく、民宿が主体をなす温泉であるが、すべて蒲田川上流の新穂高温泉からの引湯でまかなわれている。蒲田川の河原にある共同露天風呂「荒神の湯」はよく知られている。1979(昭54)年8月の栃尾土石流災害はこの温泉街に大きな被害をもたらした。
槍-穂高火山
槍-穂高連峰に分布する穂高安山岩類が、高山市地域に広く分布する丹生川火砕流堆積物の給源にあるコールドロンを埋積した堆積物であり、さらにその西側に分布する滝谷花崗閃緑岩に貫かれ、これらが第四紀前期の火山-深成複合岩体を形成していることで命名された火山である。この火山の活動では、巨大な噴煙にともなわれる降下火砕堆積物は形成されなかったようであるが、丹生川火砕流堆積物の流出に際して上空に噴き上げられた火山灰が「穂高-Kd39」と呼ばれる広域テフラとして房総半島地域にまで飛んでいる。
コールドロン
火山活動に関係して形成される凹地をカルデラというが、もともとは地形として認識できる場合に使われる用語であった。そのため、古い時代に形成された火山体で地形上の特徴が削剥されてわからなくなってしまった火山性陥没構造をコールドロンという。最近ではこれらの区別を厳密にしない傾向があり、すべて「カルデラ」と表現されている場合がしばしばみられる。
滝谷花崗閃緑岩
高原川支流の蒲田(がまた)川上流域から飛騨山脈の西側に沿って南方へ帯状に延び、山稜上の西穂山荘付近から長野県側の上高地の南方へかけて南北約13km,東西約4kmの規模で分布する。おもに中粒の角閃石黒雲母花崗閃緑岩からなり、岩体の上下方向に岩相・組成上の系統的な変化を示す。穂高安山岩類が埋積したコールドロンにおける火山-深成複合岩体をなし、組成的な類似性をもち、空間的・時間的に密接な関係を示すことで、槍-穂高火山の地下深部におけるマグマ溜りの最終固結物を表わしている。地球上で最も若い露出花崗岩体として知られ、飛騨山脈の上昇隆起にともなって固結後に東へ20°ほど傾動していることで、岩体の天井部から1,800mの深部まで地表で見ることができる。
地質年代