対象物 長良川流域の環流丘陵 ながらがわりゅういきのかんりゅうきゅうりょう
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場所 郡上市八幡町西乙原/郡上市美並町赤池・根村・立花/関市洞戸町大野
概要    山間部において大地の隆起量がそれほど大きくないと、河川は平野部と同様に横へ削ることで谷を広げるように蛇行して流れる。これを穿入(せんにゅう)蛇行という。蛇行が極端になって流路が短絡すると、平野部における三日月湖のように蛇行部分が流路から切り離されて低地として残り、その低地に囲まれるように残丘ができる。これが「環流丘陵」である。ただし、山間部では隆起量が少ないとはいえ決して沈降域ではない点が平野部の蛇行と異なり、流路跡は現流路よりも高い位置にあって集落や田畑などの生活の場になることが多い。郡上八幡より下流の長良川中流域やそれに美濃市で合流する板取川下流域には環流丘陵が現流路に沿っていくつか分布している。この地域には美濃帯堆積岩類が分布しており、そのなかで浸食に対する抵抗力の強いチャートが選択的に環流丘陵として残されていると思われがちであるが、規模の大きい場合には必ずしもそれはあてはまらない。
ジオ点描    環流丘陵はその形成過程からみると隆起量の少ない地域で形成されると考えられるが、必ずしも隆起量の多い地域では形成されにくいというわけではない。隆起速度の資料からみると一概に隆起量の大小と環流丘陵の分布頻度がうまく一致しているとはいえず、隆起量の差異よりも意外にも地質の硬軟といった地質環境の差異の方が影響している場合もありそうで、一義的な要因では説明できないようである。
文献
  • 安江健一・高取亮一・谷川晋一・二ノ宮 淳・棚瀬充史・古澤 明・田力正好(2014)内陸部における侵食速度の指標に関する検討:還流丘陵を伴う旧河谷を用いた研究.地質学雑誌,第120巻,435-445頁.
  • 写真 郡上市八幡町西乙原における環流丘陵
    (撮影:藤岡比呂志)
    写真 郡上市美並町根村における環流丘陵
    (撮影:藤岡比呂志)
    美濃帯堆積岩類
    美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。
    チャート
    一般には硬く緻密な微粒珪質堆積岩の総称であり、美濃帯堆積岩類を構成する主要な岩石の一つとして特徴的に産する。厚く層状に分布することが多く、これを層状チャートと呼ぶ。一部に古生代ペルム紀のものも含まれるが、ほとんどは中生代三畳紀~ジュラ紀前期に海底に堆積した放散虫などのプランクトンからなる遠洋性の堆積物で、陸源砕屑物をまったく含まない。



    地質年代