地名 横谷渓谷 よこたにけいこく
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場所 下呂市金山町金山横谷本洞
指定等 県指定名勝
概要    飛騨川支流の馬瀬(まぜ)川に比較的下流において流れ込む横谷川にある峡谷で、美濃帯堆積岩類のおもにチャートメランジュが分布する地域を流れており、白滝(しらたき;落差約7m)、二見滝(ふたみだき;同約5m)、紅葉滝(もみじだき;同約4m)、鶏鳴滝(けいめいだき;同約12m)の4つの滝がある景勝地である。これらの滝はいずれもチャートの分布域にあり、小規模な断層に沿って形成されているとされ、それほど大きな滝ではない。なお、鶏鳴滝という名称は“黄金姫(こがねひめ)と秘宝の鶏”の伝説にちなんでいる。
ジオ点描    削剥に対する抵抗力がそれほど異ならない地質環境においてはほぼ垂直に落下するような大規模な瀑布は形成されにくい。水量があまり多くない立地環境であることも考慮すると、ほぼ同質なチャートの中を流れる谷ではかなりローカルな条件が微妙に影響している可能性があり、わずかに生まれた落差が徐々に大きくなっていく程度の渓流風景を作っていくようである。
文献
  • 脇田浩二・小井土由光(1994)下呂地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,79頁.
  • 写真 金山町奥金山の横谷渓谷にある鶏鳴滝
    (撮影:小井土由光)
    写真 金山町奥金山の横谷渓谷にある白滝
    (撮影:小井土由光)
    美濃帯堆積岩類
    美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。
    チャート
    一般には硬く緻密な微粒珪質堆積岩の総称であり、美濃帯堆積岩類を構成する主要な岩石の一つとして特徴的に産する。厚く層状に分布することが多く、これを層状チャートと呼ぶ。一部に古生代ペルム紀のものも含まれるが、ほとんどは中生代三畳紀~ジュラ紀前期に海底に堆積した放散虫などのプランクトンからなる遠洋性の堆積物で、陸源砕屑物をまったく含まない。
    メランジュ
    もともとは混合を意味するフランス語であり、いろいろな種類の岩石が複雑に混じりあった地質体を指し、プレートの沈み込みにともなう構造運動で変形した岩石類にあてはめて用いることが多い。美濃帯堆積岩類においては、泥岩の基質中に石灰岩・緑色岩・チャート・珪質泥岩・砂岩などからなるさまざまな大きさの礫あるいは岩塊を異地性岩体として数多く含む地質体である。海洋プレート上に載った堆積物が海溝部で付加される過程のほかに、海底地すべりや断層に沿う破断作用などの過程が複合されて形成されると考えられている。


    地質年代