地名 伊吹山 いぶきさん(いぶきやま)
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場所 岐阜・滋賀県境
指定等 日本百名山/新・花の百名山
概要    伊吹山系の主峰をなす標高1,377mの山(頂上は滋賀県)であり、全体が美濃帯堆積岩類からなるが、大きくみると西(滋賀県側)に傾く低角の断層を境にして上半分が石灰岩、下半分が砂岩や砂岩泥岩互層などからなる。西に傾く境界であるから石灰岩体は岐阜県側では標高900m付近より上にだけ分布し、滋賀県側では山麓から頂上まで分布している。この石灰岩は当時の海山を覆っていたサンゴ礁を形成していたものに相当するが、同様な環境にあったと考えられている近くの金生山と較べてフズリナ大型貝類化石が少ない。平らな広い山頂部周辺はカルスト台地となっており、石灰岩地域特有の植物も多く、“イブキ”を冠する種の植物が数多く自生している。山頂近くまで伊吹山ドライブウェーで行けることもあり、高山植物や薬草の観賞、散策、パノラマ眺望などを求めて多くの人が訪れる。また、中京圏や関西圏から近いこともあり、南斜面をほぼ直登する日帰り登山や夜間登山も盛んに行なわれている。
ジオ点描    周囲の山地から独立してそびえている山体はいろいろな方向から望めることができる。同一山体でも見る方向によってまったく異なる山容を示すことはしばしばあるが、組成も岩石組織も単純な石灰岩からなる伊吹山の山体の表面は、雨水に差別的に浸食される機会が少ないことからドーム状の形態となり、どこから眺めても山頂部が丸みをもって見える。
文献
  • 山本博文(1985)根尾南部地域および伊吹山地域の美濃帯中・古生層.地質学雑誌,91巻,353-369頁.
  • 写真 伊吹山山頂
    (撮影:木澤慶和)
    写真 東海道新幹線の車窓から見た冬の伊吹山
    (撮影:小井土由光)
    美濃帯堆積岩類
    美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。
    石灰岩
    美濃帯堆積岩類の中には、金生山の赤坂石灰岩、舟伏山地域の舟伏山石灰岩、石山地域の石山石灰岩などと呼ばれる比較的大きな石灰岩の岩体が分布しており、石灰石資源として採掘されていたり、場所によっては鍾乳洞地帯を形成している。古生代のペルム紀に形成された緑色岩(玄武岩質火山岩類)からなる海山を覆うサンゴ礁を構成していた石灰質生物の遺骸が集積して形成されたものであり、一般に緑色岩と密接にともなって美濃帯堆積岩類の中では最も古い時期に形成された岩石である。
    砂岩
    美濃帯堆積岩類において、海洋プレートが大陸縁辺に近づき、海溝で沈み込んでいく際に陸域から供給される砕屑物である。それぞれが単独の地質体を作る場合もあれば、互層をなす場合もあり、前者においては厚い砂岩層としてしばしば産する。これらの多くは海底地すべりにより混濁流としてもたらされたタービダイトを形成している。
    フズリナ
    古生代の石炭紀~ペルム紀にいた石灰質の殻をもつ有孔虫であり、温暖な地域の海底付近に棲息し、当時のサンゴ礁と考えられている石灰岩中に多量に含まれることで知られる。単細胞の原生動物であるが、進化の過程で複雑な殻の形態をもつようになり、それが示準化石として重要な役割を演じている。岐阜県地域では美濃帯堆積岩類の石灰岩中に頻繁に含まれ、なかでも大垣市の金生山に分布する赤坂石灰岩に含まれるフズリナは、ギュンベルにより1874(明7)年に日本産化石に関する最初の論文として報告されたものであり、そのためにここが「日本の古生物学発祥地」とされている。
    カルスト台地
    石灰岩などの炭酸塩岩が分布する地域において二酸化炭素を含む雨水などにより溶かされて浸食されることで形成される地形で、起伏量の小さい地域では台地状の地形を形成することが多く、起伏量が大きいと急崖に囲まれた独立峰的な高い山になることが多い。地表面にドリーネ(すり鉢型の窪地)、ピナクル(石灰岩柱)、カッレンフェルト(溶食性の小溝)などの独特の地形をつくる。
    伊吹山ドライブウェー
    岐阜・滋賀県境にまたがる伊吹山(標高1377m)の山頂付近(標高1266m)まで登れる自動車専用の有料道路である。ほとんど全線にわたり美濃帯堆積岩類の上を走り、県境尾根上の標高約900mより上ではすべて石灰岩からなる地域となる。山頂付近は石灰岩地帯特有の草本植物や薬草の宝庫として知られ、春・夏・秋それぞれに約350種に及ぶお花畑も広がり、山頂からの濃尾平野や琵琶湖の眺望もすばらしく、冬場の閉鎖期間を除いて多くの利用者で賑わう。
    金生山
    伊吹山地の南東端にあり、美濃帯堆積岩類の石灰岩で構成されている標高217mの山である。この石灰岩は古生代ペルム紀に低緯度地方の火山島の上にできたサンゴ礁周辺の環境を表わしていると考えられている。その中からおもに巻貝や二枚貝、ウミユリ、サンゴ、フズリナ、石灰藻などの化石が数多く産出することで知られており、「日本の古生物学発祥の地」と呼ばれることがある。ここから産出した化石は南麓にある金生山化石館に多数展示されている。日本有数の石灰石の産出地であり、平野に近いという立地条件もあり、古くから石灰石や大理石の採掘が盛んに行われ、現在も複数の露天掘り鉱山が稼働している。なお、山の名称は「かなぶやま」と呼ぶのが正しいとされている。
    大型貝類化石
    赤坂石灰岩は大垣市北西部にある金生山の山体をつくる石灰岩体を指す名称であり、美濃帯堆積岩類を構成する石灰岩体の中においても比較的大きな岩体の1つである。この石灰岩体は古生代ペルム紀に低緯度地方の火山島の上にできたサンゴ礁周辺の環境を表わしていると考えられており、ウミユリ、サンゴ、フズリナなどの化石が数多く産出することで知られている。それらに加えて二枚貝や巻貝の貝類化石も産出し、しかもそれらが大型のものであることを特徴としている。よく知られたものとして、二枚貝類ではシカマイアやアルーラ(最大25cm以上)、頭足類ではシーロガステロセラス(オオムガイ:殻径約30cm)、巻貝類ではベレロフォン、アカサキエラ(旧マーチソニア:最大40cm以上)、ゾンガスピラ(旧バスロトマリア)などがある。こうした大型貝類化石はフズリナなどとも共生しているが、ほとんどは有機炭素を多く含む黒色の石灰岩から産出する。
    地質年代