伊奈川花崗岩
中部地方の領家帯を中心に美濃帯南部も含めてきわめて広い範囲に分布する巨大な花崗岩体であり、そのうち岐阜県内には濃飛流紋岩の南縁部においてそれとの接触部にあたる浅部相が広く分布し、多くの地域でNOHI-1およびNOHI-2を貫いており、それらと火山-深成複合岩体を形成していると考えられている。ただし、県南東縁の上村(かみむら)川流域では領家帯構成岩類の天竜峡花崗岩の周辺において三都橋花崗岩と呼ばれている深部相が分布するが、ここでは区別せずに扱っている。斑状あるいは塊状の粗粒角閃石黒雲母トーナル岩~花崗岩からなる。この花崗岩は、古典的な「地向斜-造山運動」論において造山帯中核部の地下深部で形成された花崗岩体の典型例と考えられていたが、1960年代に地表に噴出・堆積した濃飛流紋岩を貫いていることが発見され、地表近くのきわめて浅所までマグマとして上昇してきたことになり、それまでの火成活動史の考えを根底から覆えし、塗り替えることとなった。
美濃帯堆積岩類
美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。
熱変成作用
既存の岩石が熱いマグマと接触して岩石組織や組成を変えられてしまう現象で、接触変成作用ともいう。この作用で形成された岩石を熱変成岩あるいは接触変成岩といい、これを「ホルンフェルス」と呼ぶこともある。これはドイツ語で、ホルン=角のように固くなったフェルス=様子を意味しており、もともとは泥岩を源岩とする熱変成岩に用いられた用語であるが、すべての熱変成岩に用いられることが多い。熱をもたらすマグマは接触した岩石に熱を奪われて冷却していくから、熱変成作用は花崗岩体を形成するような大きな容量をもつマグマの周辺で起こりやすい。
地質年代