災害名 栃尾土石流災害 とちおどせきりゅうさいがい
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発生年月日 1979(昭54)年8月22日
主要被災地 旧上宝村栃尾
災害要因 本州上の前線と沖縄近辺に停滞する台風による集中豪雨
概要    奥飛騨温泉郷の栃尾温泉で知られる栃尾地区に北側から流れ込む洞谷において発生した土石流が一気に流れ下って地区全体を襲った災害であり、通りがかりの観光客3名がのみこまれて犠牲となった。土砂総量は10万㎥と推定され、谷の途中に設置されていた砂防堰堤や下流域の扇状地上を走る県道の橋をすべて破壊した。洞谷上流に分布する岩石は笠ヶ岳コールドロンを構成する笠谷層の流紋岩質溶岩であり、それが集中豪雨により崩壊し、傾斜30°にも達する急傾斜地を流れ下ることで土石流となり、高速のまま山麓まで流れ下った。すでに満杯になっていた既存の砂防堰堤が高速の土石流により破壊され、堆積していた土砂に堰堤本体の巨大ブロックが加わって大規模となり民家に当たるなど被害を大きくした。なお、谷の下流部には飛騨外縁帯構成岩類蒲田(がまた)結晶片岩超苦鉄質岩(蛇紋岩)といった脆く崩れやすい岩石も分布するが、それらは土石流の直接的な発生要因にはなっていない。
ジオ点描 【7.15豪雨災害と共通】 土砂災害を起こしやすい地質環境はあっても、それを必ず引き起こすような地質条件が備わっている場所はほとんどない。仮に地質条件が備わっているとするなら、そこでは土砂災害がほぼ恒常的に発生してもよいはずであり、発生の予測も容易となる。実際には谷を多量に埋積していた土砂が局所的な集中豪雨により土石流を発生していることが常である。
文献
  • 鹿野勘次(1980)集中豪雨と土石流の授業実践-1979年8月22日,岐阜県吉城郡上宝村栃尾における-.地学教育と科学運動,9号,83-85頁.
  • 河合成司(1998)昭和54年8月 奥飛騨・洞谷土石流災害について.新砂防,51巻,70-73頁. 
  • 写真 栃尾土石流災害の様子
    (撮影:鹿野勘次)
    写真 準備中
    栃尾温泉
    高原川が蒲田(がまた)川と合流する場所にあり、両河川沿いに広がる奥飛騨温泉郷の中にあって規模も小さく、民宿が主体をなす温泉であるが、すべて蒲田川上流の新穂高温泉からの引湯でまかなわれている。蒲田川の河原にある共同露天風呂「荒神の湯」はよく知られている。1979(昭54)年8月の栃尾土石流災害はこの温泉街に大きな被害をもたらした。
    笠ヶ岳コールドロン
    飛騨山脈の笠ヶ岳(標高2898m)周辺に分布し、これまで「笠ヶ岳流紋岩類」と呼ばれてきた火山岩類に対して、それらの形成過程を強調して与えられている名称である。もともとの岩体はほぼ完全な楕円形状をしていたらしく、引き続く深成活動や後からの火成活動により現在はその東半分が失われており、東西約12km×南北約11kmの規模で分布している。二重の環状断層で区切られた二重陥没構造をもつコールドロンからなり、隆起量の大きい地域に分布しているためにその内部がよく観察できる。おもに流紋岩質~流紋デイサイト質の溶岩・溶結凝灰岩からなり、成層した砕屑岩やごく少量の安山岩質火砕岩をともなう。下位から、中尾層、笠谷層、穴毛谷層、笠ヶ岳山頂溶結凝灰岩層に区分され、これらはほぼ水平な堆積構造を示し、積算層厚3,000m以上、総体積400km³以上の岩体を形成している。環状断層に沿って花崗斑岩の岩脈が貫入し、とりわけ外側コールドロンの縁の岩脈は連続性がきわめて良く、典型的な環状岩脈をなしている。岩体北東部で奥丸沢花崗岩に貫入され,熱変成作用を受けている。
    笠谷層
    笠ヶ岳コールドロンを構成する火山岩類のうち第2期に形成されたもので、岩体の西部にあたる錫杖岳(標高2168m),大木場の辻(おおきばのつじ)(標高2232m)から笠谷流域へかけての地域に分布する。外側コールドロンを層厚約1,600mで厚く埋積し、おもに斑晶の乏しい流紋岩溶岩からなり、凝灰質の破砕屑岩層や溶結凝灰岩層をともない、ほぼ水平な構造を示す。分布域の西部ではコールドロンの床をなす飛騨帯構成岩類の飛騨花崗岩類を不整合に覆う。
    飛騨外縁帯構成岩類
    飛騨外縁帯は、飛騨帯の南側を取りまくように幅数~30kmほどで細長く分布する地質帯である。岐阜県地域では飛騨山脈の槍ヶ岳(標高3180m)付近から高山市の奥飛騨温泉郷、丹生川町北部~国府町地域、清見町楢谷(ならだに)、郡上市白鳥町石徹白(いとしろ)などに断片的に配列して露出している。そこを構成している岩石はかなり変化に富み、古生代に形成された非変成の砕屑岩類や火山岩類、結晶片岩などからなる変成岩類、超苦鉄質岩(U)から変化した蛇紋岩と呼ばれる岩石などである。これらの岩石は、飛騨帯構成岩類を一部に含めた当時の大陸(中朝地塊と呼ばれる)の東縁で形成された陸棚や浅海性の堆積物および火山砕屑物が中生代ジュラ紀中ごろまでに大規模な横ずれ運動をともなって飛騨帯構成岩類と接するようになり、その過程でもたらされた変成岩類や超苦鉄質岩を断片的にともなって形成されたと考えられている。ただし、飛騨外縁帯と飛騨帯との間には、富山県地域や新潟県地域などにおいて宇奈月帯あるいは蓮華帯と呼ばれる変成岩類で構成された地帯が分布しており、岐阜県地域においてもそれらとよく似た性質の岩石が断片的に分布するが、よくわかっていない点もあるため、ここではすべて飛騨外縁帯の構成岩類として扱う。
    蒲田結晶片岩
    奥飛騨温泉郷地域に分布する飛騨外縁帯構成岩類の一つで、蒲田地区の南方にまとまって分布するほか、そこから北東方へ穂高平周辺地域へかけて断片的に小岩体として分布する。そのまま北東方へ延長すると槍ヶ岳結晶片岩に連なる。おもに苦鉄質火山岩を源岩とする結晶片岩からなり、砂岩あるいは泥岩を源岩とする結晶片岩をともない、槍ヶ岳結晶片岩とよく似た岩石からなる。
    超苦鉄質岩
    含まれている鉱物組成により火成岩を区分した場合、カンラン石、輝石、角閃石などの有色鉱物(苦鉄質鉱物)が70%以上を占める岩石で、おもに含まれる鉱物によりカンラン岩、輝岩、角セン石岩などに分けられる。これを化学組成で区分すると、SiO₂含有量が約45%より少ない岩石にほぼ相当し、この場合には超塩基性岩と呼ぶ。
    地質年代