飛騨外縁帯構成岩類
飛騨外縁帯は、飛騨帯の南側を取りまくように幅数~30kmほどで細長く分布する地質帯である。岐阜県地域では飛騨山脈の槍ヶ岳(標高3180m)付近から高山市の奥飛騨温泉郷、丹生川町北部~国府町地域、清見町楢谷(ならだに)、郡上市白鳥町石徹白(いとしろ)などに断片的に配列して露出している。そこを構成している岩石はかなり変化に富み、古生代に形成された非変成の砕屑岩類や火山岩類、結晶片岩などからなる変成岩類、超苦鉄質岩(U)から変化した蛇紋岩と呼ばれる岩石などである。これらの岩石は、飛騨帯構成岩類を一部に含めた当時の大陸(中朝地塊と呼ばれる)の東縁で形成された陸棚や浅海性の堆積物および火山砕屑物が中生代ジュラ紀中ごろまでに大規模な横ずれ運動をともなって飛騨帯構成岩類と接するようになり、その過程でもたらされた変成岩類や超苦鉄質岩を断片的にともなって形成されたと考えられている。ただし、飛騨外縁帯と飛騨帯との間には、富山県地域や新潟県地域などにおいて宇奈月帯あるいは蓮華帯と呼ばれる変成岩類で構成された地帯が分布しており、岐阜県地域においてもそれらとよく似た性質の岩石が断片的に分布するが、よくわかっていない点もあるため、ここではすべて飛騨外縁帯の構成岩類として扱う。
福地層
奥飛騨温泉郷地域に分布する飛騨外縁帯構成岩類の一つで、福地地区のオソブ谷支谷一の谷下流部を中心に一の谷層の南東側に北東~南西方向に断層に囲まれて帯状に分布する。おもに石灰岩あるいは石灰質泥岩を主体とする浅海成の堆積物からなリ、層厚は270m以上である。ファボシテス(ハチノスサンゴ)をはじめとしてサンゴ類、腕足類、三葉虫、貝形虫、コノドント、放散虫などきわめて多くの化石を産し、福地層を中心に分布一帯が国指定の天然記念物「福地の化石産地」となっている。時代決定できる化石はすべてデボン紀のものであり、日本におけるデボン紀層を代表する地層となっている。
放散虫
海生の動物プランクトンとして先カンブリア時代から現在に至るまで生息している単細胞生物で、珪酸成分からなる0.1~0.2mmほどの大きさの骨格を持ち、そのため微化石として残されていることが多い。生息した時代により骨格の形態が異なり、その変化が速いために重要な示準化石となる。多くのチャートは放散虫骨格の堆積によって形成されており、それをフッ酸(HF)で腐蝕させた不溶残渣から実体顕微鏡下で放散虫を取り出し、走査型電子顕微鏡を用いて骨格の形態や微細な構造を観察する技術が1980年代になってから確立し、それにより美濃帯堆積岩類では薄いチャート層の単位で形成時代がなされ、それまでおもにフズリナ化石などで決められていた時代とは比べものにならない精度で時代決定がなされるようになった。こうした状況を「放散虫革命」という。
貝形虫
節足動物の甲殻類に属し、二枚貝のような炭酸カルシウムを多く含む固い背甲とミジンコに似た体部や付属肢をもつ体長0.5~1.0mmほどの動物で、「カイミジンコ」とも呼ばれる。淡水から海水まで地球上のほとんどの水域に広く生息し、ほとんどの種が底生生活をする。古生代オルドビス紀前期(約5億年前)から生息しており、背甲が微化石として地層中に多く残され、古生代以降の示準化石としても示相化石としても重要な役割を担っている。岐阜県地域では、飛騨外縁帯構成岩類の吉城層から日本最古となる古生代オルドビス紀を示すものが発見されたとして話題となったが、その後、それより若い時代のものと考えられるようになっている。
地質年代