地層名 福地層【FU】 ふくじそう
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代表地点 高山市奥飛騨温泉郷福地 オソブ谷支谷一の谷下流部
形成時期 デボン紀
概要    奥飛騨温泉郷地域に分布する飛騨外縁帯構成岩類の一つで、福地地区のオソブ谷支谷一の谷下流部を中心に一の谷層の南東側に北東~南西方向に断層に囲まれて帯状に分布する。おもに石灰岩あるいは石灰質泥岩を主体とする浅海成の堆積物からなリ、層厚は270m以上である。ファボシテス(ハチノスサンゴ)をはじめとしてサンゴ類、腕足類、三葉虫貝形虫コノドント放散虫などきわめて多くの化石を産し、福地層を中心に分布一帯が国指定の天然記念物「福地の化石産地」となっている。時代決定できる化石はすべてデボン紀のものであり、日本におけるデボン紀層を代表する地層となっている。
文献
  • 新川 公(1980)岐阜県吉城郡上宝村福地地域の地質と化石層序.地質学雑誌,86巻,25-36頁.
  • 写真 高山市奥飛騨温泉郷福地の福地山登山道における福地層の石灰岩の転石
    (撮影:小井土由光)
    写真 準備中
    飛騨外縁帯構成岩類
    飛騨外縁帯は、飛騨帯の南側を取りまくように幅数~30kmほどで細長く分布する地質帯である。岐阜県地域では飛騨山脈の槍ヶ岳(標高3180m)付近から高山市の奥飛騨温泉郷、丹生川町北部~国府町地域、清見町楢谷(ならだに)、郡上市白鳥町石徹白(いとしろ)などに断片的に配列して露出している。そこを構成している岩石はかなり変化に富み、古生代に形成された非変成の砕屑岩類や火山岩類、結晶片岩などからなる変成岩類、超苦鉄質岩(U)から変化した蛇紋岩と呼ばれる岩石などである。これらの岩石は、飛騨帯構成岩類を一部に含めた当時の大陸(中朝地塊と呼ばれる)の東縁で形成された陸棚や浅海性の堆積物および火山砕屑物が中生代ジュラ紀中ごろまでに大規模な横ずれ運動をともなって飛騨帯構成岩類と接するようになり、その過程でもたらされた変成岩類や超苦鉄質岩を断片的にともなって形成されたと考えられている。ただし、飛騨外縁帯と飛騨帯との間には、富山県地域や新潟県地域などにおいて宇奈月帯あるいは蓮華帯と呼ばれる変成岩類で構成された地帯が分布しており、岐阜県地域においてもそれらとよく似た性質の岩石が断片的に分布するが、よくわかっていない点もあるため、ここではすべて飛騨外縁帯の構成岩類として扱う。
    一の谷層
    奥飛騨温泉郷地域に分布する飛騨外縁帯構成岩類の一つで、福地地区のオソブ谷支谷一の谷中流部を中心に北東~南西方向に断層に囲まれて帯状に分布する。おもに層厚300m以上の石灰岩からなり、何枚かの泥岩や玄武岩質凝灰岩をはさみ、浅海成の堆積物からなる。とりわけ多量のフズリナ化石を含み、日本における古生代石炭紀の標準層序を確立する上で重要な地層となっている。
    ファボシテス
    古生代のオルドビス紀後期からデボン紀中期にかけてだけ知られる示準化石で、とくにシルル紀とデボン紀には、層孔虫や四射サンゴなどとともに代表的造礁生物の一つとして繁栄し、示相化石としての価値も大きい。骨格は炭酸カルシウムからなり、一般に直径数cmから数十cm単位の群体を形成し、床板を密にもつ管状の個体と個体が連結して塊状の群体を形成し、各個体の断面が多角形で、全体として蜂の巣状を呈することで、ハチノスサンゴとも呼ばれる。岐阜県地域では、飛騨外縁帯構成岩類の福地層と林ノ平層から産出し、ともにデボン紀の地層である。
    三葉虫
    古生代の初期(カンブリア紀)から終期(ペルム紀)に生息し、古生代を代表する無脊椎動物であり、中生代を通じて生息したアンモナイトと双璧をなす有名な示準化石である。節足動物に属し、多くは3~5cmの体長で、体は扁平で多くの体節からなり、縦方向にも頭・胸・尾の3つに区分されるが、胴体部分が中央の盛り上がった部分「中葉あるいは軸部」と左右の薄い部分「側葉あるいは肋部」の3つに分かれており、これが三葉虫の語源となっている。有名な化石ではあるが、日本ではそれほど頻繁に産出するわけではなく、岐阜県地域では飛騨外縁帯構成岩類の一重ヶ根層(オルドビス紀~シルル紀)や福地層(デボン紀)などから発見されている。
    貝形虫
    節足動物の甲殻類に属し、二枚貝のような炭酸カルシウムを多く含む固い背甲とミジンコに似た体部や付属肢をもつ体長0.5~1.0mmほどの動物で、「カイミジンコ」とも呼ばれる。淡水から海水まで地球上のほとんどの水域に広く生息し、ほとんどの種が底生生活をする。古生代オルドビス紀前期(約5億年前)から生息しており、背甲が微化石として地層中に多く残され、古生代以降の示準化石としても示相化石としても重要な役割を担っている。岐阜県地域では、飛騨外縁帯構成岩類の吉城層から日本最古となる古生代オルドビス紀を示すものが発見されたとして話題となったが、その後、それより若い時代のものと考えられるようになっている。
    コノドント
    古生代カンブリア紀から中生代三畳紀まで生存した海生の化石動物のなんらかの器官を代表する部分化石とされ、その正体は長らく謎のままであった。1983(昭58)年にスコットランドで「歯」の持ち主の全体の化石としてウナギのような細長い体をもつ動物化石が発見され、その口から奥まったところに規則正しく並んでいる「歯」が捕食や消化にかかわる器官の機能を果たしていたという考えが出され、有力な説となっている。主成分はリン酸カルシウムからなり、0.2~1mm程度の大きさで、円錐状の形をしたものや縦長の“土台”の上にとがった突起が並ぶものなどいろいろ形状を持つ。形態が多様化するオルドビス紀から三畳紀までの約三億年の期間で最も精度の高い示準化石として利用されている。岐阜県内では、飛騨外縁帯構成岩類の一重ヶ根層から日本最古の化石として古生代オルドビス紀後期を示すものが見出されている。
    放散虫
    海生の動物プランクトンとして先カンブリア時代から現在に至るまで生息している単細胞生物で、珪酸成分からなる0.1~0.2mmほどの大きさの骨格を持ち、そのため微化石として残されていることが多い。生息した時代により骨格の形態が異なり、その変化が速いために重要な示準化石となる。多くのチャートは放散虫骨格の堆積によって形成されており、それをフッ酸(HF)で腐蝕させた不溶残渣から実体顕微鏡下で放散虫を取り出し、走査型電子顕微鏡を用いて骨格の形態や微細な構造を観察する技術が1980年代になってから確立し、それにより美濃帯堆積岩類では薄いチャート層の単位で形成時代がなされ、それまでおもにフズリナ化石などで決められていた時代とは比べものにならない精度で時代決定がなされるようになった。こうした状況を「放散虫革命」という。
    福地の化石産地
    福地地域は古生代の化石産地としてよく知られており、とりわけ高原川(平湯川)支流のオソブ谷に注ぐ“一の谷”に分布する福地層は飛騨外縁帯を構成する古生代デボン紀の地層として知られている。同層はおもに石灰岩からなり、これらの中から床板サンゴ、四射サンゴ、層孔虫、ハチノスサンゴ、三葉虫、腕足類など、極めて豊富な化石を産する。これらの多くの貴重な化石が得られることで、この谷一帯が記念物として地域指定されている。そのためここへの入山は禁止されており、これらの化石は福知山トレッキングコース入口にある「化石遊歩道」で観察できる。
    地質年代