地層名 伊西ミグマタイト(含透輝石石英長石質岩)【HN4】 いにしみぐまたいと
(がんとうきせきせきえいちょうせきしつがん)
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代表地点 飛騨市神岡町吉ヶ原 高原川河床
形成時期 三畳紀(約2億4000万年前前後)
概要    神岡町伊西地域から神岡鉱山周辺、神岡町西部の流葉山(ながれはやま)(標高1423m)周辺などにややまとまって分布するが、一般には石灰岩石灰珪質片麻岩にともなって幅数cm~数mの脈状ないし不規則なプール状に小規模な岩体として分布する。角閃岩や角閃石片麻岩の岩片を包有し、ミグマタイト構造を作り、緑色短柱状の透輝石(~サーラ輝石)を含む粗粒~細粒、塊状~片麻状組織の珪長質岩で、神岡付近ではカリ長石に富み、当初「伊西閃長岩」と呼ばれたが、岩相変化が大きく、神岡鉱山の技術者により産状に基いて伊西ミグマタイト(または伊西岩)と呼ばれるようになった。
文献
  • 野沢 保(1952)ひだ神岡鉱山付近の伊西閃長岩質岩石の成因について.地質学雑誌,58巻,469-475頁.
  • 加納 隆(1981)飛騨変成帯のミグマタイト構造.地質学雑誌,87巻,315-328頁.
  • Sakoda, M., Kano,T., Fanning, C.M., and Sakaguchi, T.(2006) SHRIMP U-Pb zircon age of the Inishi migmatite around the Kamioka mining area, Hida metamorphic complex, centra Japan. Resource Geology, 56, 17-26.
  • 写真 飛騨市神岡町吉ヶ原の高原川河床における伊西ミグマタイトの研磨面
    (撮影:加納 隆)
    写真 飛騨市神岡町吉ヶ原の高原川河床に露出する変閃緑岩の角張った岩片を含む(アグマタイト構造の)伊西ミグマタイト
    (撮影:加納 隆)
    神岡鉱山
    鉱山の歴史は古く、採掘は奈良時代に始まる。1874(明7)年に当時の三井組が本格的な開発をはじめ、近代的な手法により大規模な採掘がなされ、約130年間の総採掘量は7,500万トンにも達している。一時は東洋一の鉱山として栄えたが、2001(平13)年6月に鉱石の採掘を中止した。飛騨帯構成岩類の飛騨変成岩類のうち、おもに結晶質石灰岩を火成岩起源の熱水が交代したスカルン鉱床を稼行対象とした鉱山で、栃洞(とちぼら)坑、茂住(もずみ)坑、円山(まるやま)坑などの鉱床がある。亜鉛鉱石の主要鉱物である閃亜鉛鉱に含まれるカドミウムを原因とする公害病「イタイイタイ病」が下流域の富山県神通川流域で大規模に発生したことはよく知られている。また、茂住坑の跡地はスーパーカミオカンデとしてニュートリノ観測装置に利用されている。なお、2007年に日本地質学会により「日本の地質百選」に選定されている。
    石灰岩
    一般に縞状片麻岩の片理と調和的な岩体として飛騨帯の各地に広く分布するが、岐阜県内では小鳥(おどり)川流域や宮川流域にまとまって分布する。おもに石灰岩(大理石)からなり、単斜輝石片麻岩、石灰珪質片麻岩などをともなう。石灰珪質片麻岩と構成岩石の種類にあまり差異はないが、石灰岩の量が多い岩相として区別している。神岡町の高原川流域では閃緑岩質~トーナル岩質片麻岩中にレンズ状~薄層として産し、その他の地域でも花崗岩質片麻岩・ミグマタイト質花崗岩類中の小規模なレンズや層状岩体として分布する。
    石灰珪質片麻岩
    飛騨帯の各地に広く分布するが、岐阜県内では最北部の万波(まんなみ)川から宮川にかけての地域に比較的まとまって分布する。単斜輝石片麻岩、ざくろ石や珪灰石・緑簾石を含む石灰珪質片麻岩、石英質岩、石灰岩の薄層などからなり、花崗岩質片麻岩や伊西ミグマタイトをともなう。神岡鉱山茂住坑内では縞状構造の顕著な石灰珪質片麻岩中に閃緑岩質の深成岩(変閃緑岩もしくは閃緑岩質片麻岩となっている)が貫入し、また捕獲岩となっている。石灰岩と構成する岩石の種類は同じであるが、石灰岩の量が少なく石灰珪質岩や珪質岩の多い岩相として区別している。
    ミグマタイト
    岩石標本の大きさにおいて変成岩的な部分と優白質の花崗岩的な部分とが入り混じりあったように見える岩石で、境界が比較的明瞭で角ばった変成岩の岩片を含むもの(アグマタイト)から、境界が不明瞭でほとんど花崗岩と区別できないようなもの(シュリーレン)までさまざまな形態がある。片麻岩と花崗岩が混在して分布するような高温状態の変成作用を受けた地帯にしばしば産出し、花崗岩が変成岩を同化していく過程を示すもの、堆積岩など既存の岩石が変成作用を受けて部分的に溶け出す過程を示すものなどいろいろな成因説がある。
    片麻状組織
    等粒状完晶質の岩石において、片理をもつ有色鉱物に富む優黒質部と粗粒の無色鉱物に富む優白質部の互層からなる縞状構造が顕著になったもの。必ずしも片麻岩に使う用語ではなく、花崗岩の組織を表現する場合にしばしば用いられる。
    地質年代