上宝火山
高山市奥飛騨温泉郷福地の南方にある貝塩(かいしお)谷北側山腹に分布する貝塩給源火道から流出した福地凝灰角礫岩層・上宝火砕流堆積物が形成したであろう火山体であり、「上宝・貝塩火山」と呼ぶこともある。現在は飛騨山脈の上昇隆起にともない火山体は削剥されてしまい残っていない。この火山から噴出した降下火砕堆積物は「貝塩上宝テフラ」と呼ばれる広域テフラを形成して中部・関東一円に分布する。
福地凝灰角礫岩層
福地地域の西方にあたるオソブ谷上流域に分布し、一部は高山市丹生川町西部の小八賀(こはちが)川支流久手川最上流部にも分布する。上宝火山の活動初期に噴出したblock and ash flow堆積物でおもに構成され、デイサイト質の溶岩をともなう。層厚は約200mで、おもにデイサイト-流紋岩質の火山岩塊(最大径約2m)・火山礫と同質の火山灰基質からなり、無構造で淘汰が悪い。上部に発泡のよい軽石が含まれるようになり、類似の軽石を含む上宝火砕流堆積物の基底非溶結部が上位に重なる。
貝塩給源火道
福地地域南方の貝塩谷北側山腹に径約1.4×0.9mの規模で形成された上宝火山の給源火道であり、飛騨山脈の上昇隆起にともない火山体が削剥されてしまったことで、火山噴火の出口通路だけがみえている。流紋岩質の溶結凝灰岩、花崗斑岩、凝灰角礫岩からなるパイプ状岩体で、溶結凝灰岩は上宝火砕流堆積物と同一の構成鉱物を含み、岩相もよく類似している。
八本原
流動性に富む火砕流は地形の凹凸をすべて埋めるようにして堆積することで、火砕流台地と呼ばれる平坦な地形面を形成する。高山市丹生川町の通称“八本原”はきわめて緩やかな傾斜の高原であり、上宝火砕流堆積物が堆積した火砕流台地である。高原のほぼ真ん中にある十二ヶ岳(標高1326m)の展望台にあがると、まったく視野を妨げるものがないため、高山盆地から御嶽火山、乗鞍火山、槍・穂高連峰、笠ヶ岳、白山火山と360度の大パノラマが展開する。現在は小八賀(こはちが)川や荒城(あらき)川などの大きな谷がこの台地を削りこんでいるが、火砕流堆積物の堆積当時には平坦な火砕流台地が乗鞍岳周辺から高山市街地に至る広大な地域に広がっていたはずである。
溶結凝灰岩
火砕流によりもたらされた堆積物が溶結作用を受けると、その程度により強溶結、弱溶結、非溶結凝灰岩となり、一般には強溶結凝灰岩をさしていう。おもに火山灰が集まって形成された岩石ではあるが、強く圧密化した岩石となり、きわめて堅硬な岩石となる。
火砕流
火山噴火において噴煙と同じものが溶岩のように地面に沿って流れる現象である。噴煙の中には火山灰(ガラス片)のほかにマグマのかけらに相当する軽石や噴火の際に取り込まれる既存の岩石などが入っており、それらの固体をまとめて火山砕屑物といい、それらが火山ガス(ほとんど水蒸気)と混ざった状態で地表面に沿って流れる現象である。これによってもたらされた堆積物を火砕流堆積物という。火砕流はきわめて流動性に富む状態で運ばれるために、高温状態のまま高速で運ばれることになり、溶岩流などの噴火現象に比べるとはるかに危険な現象と理解しておかなければならない。
地質年代