槍-穂高連峰
飛騨山脈において北の槍ヶ岳(標高3180m)から南の前穂高岳(同3090m)までの直線距離で約7kmの範囲であり、ここに3000m以上の峰々がほぼ南北方向に並ぶ。大岩壁・岩峰などの迫力ある山岳地形に加えて、氷河地形が随所にみられる。この山稜には尾根付近の高所に穂高安山岩類、山腹の低所に滝谷花崗閃緑岩がそれぞれ分布し、ともに176万年前から80万年前というきわめて新しい時代に形成された岩石である。滝谷花崗閃緑岩が上昇しながら貫入し、山塊が西側を高くして東側を低くするような傾動隆起を起こしたことで3000m級の峰々がもたらされた。その時期は約130万年前以降のごく最近のことである。
穂高安山岩類
槍-穂高連峰の山稜部を構成し、おもにデイサイト質の溶結凝灰岩からなり、流紋岩質火砕岩、安山岩質溶岩、砕屑岩類をともない、それらに閃緑斑岩や文象斑岩の岩脈・岩床が貫入している。これらは「穂高コールドロン」と呼ばれる南北約19km、東西約6kmの細長いコールドロンを最大層厚3,300m以上で埋積しており、槍-穂高火山の一員として、いわゆる“カルデラ埋積火山岩類”に相当し、そこから溢流したいわゆる“アウトフロー火砕流堆積物”が高山市地域に広く分布する丹生川火砕流堆積物である。
丹生川火砕流堆積物
高原川流域から高山市の市街地周辺、御嶽山北西方へかけての広範囲に分布し、分布面積は500km²以上、噴出量は約100km³と推定されており、最大層厚は200m以上である。おもに斜長石と紫蘇輝石の結晶を多く含むデイサイト質の溶結凝灰岩からなり、堅硬な部分は石材としても利用されている。当初は分布状態などから乗鞍岳付近に噴出源があると考えられたが、槍-穂高連峰に分布する穂高安山岩類と同一のものであることが判明し、そこに形成されているコールドロンから噴出したことが明らかとなった。飛騨山脈地域の急激な隆起により削剥が進んでしまった槍-穂高火山の火山体から溢流した大規模な“アウトフロー火砕流堆積物”に相当する。
コールドロン
火山活動に関係して形成される凹地をカルデラというが、もともとは地形として認識できる場合に使われる用語であった。そのため、古い時代に形成された火山体で地形上の特徴が削剥されてわからなくなってしまった火山性陥没構造をコールドロンという。最近ではこれらの区別を厳密にしない傾向があり、すべて「カルデラ」と表現されている場合がしばしばみられる。
滝谷花崗閃緑岩
高原川支流の蒲田(がまた)川上流域から飛騨山脈の西側に沿って南方へ帯状に延び、山稜上の西穂山荘付近から長野県側の上高地の南方へかけて南北約13km,東西約4kmの規模で分布する。おもに中粒の角閃石黒雲母花崗閃緑岩からなり、岩体の上下方向に岩相・組成上の系統的な変化を示す。穂高安山岩類が埋積したコールドロンにおける火山-深成複合岩体をなし、組成的な類似性をもち、空間的・時間的に密接な関係を示すことで、槍-穂高火山の地下深部におけるマグマ溜りの最終固結物を表わしている。地球上で最も若い露出花崗岩体として知られ、飛騨山脈の上昇隆起にともなって固結後に東へ20°ほど傾動していることで、岩体の天井部から1,800mの深部まで地表で見ることができる。
地質年代