地層名 シツ谷層【S2】 しつだにそう
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代表地点 御母衣(みぼろ)湖東岸 朝谷
形成時期 古第三紀
概要    庄川火山-深成複合岩体コールドロン外ユニットの上部層をなし、御母衣(みぼろ)湖東岸地域からその北方の森茂(もりも)川流域や御前岳(標高1,816m)周辺地域、御母衣湖西岸地域からその北方の大白川下流域へかけての地域に広く分布する。最大層厚が1,000m以上あり、下部は流紋岩質の火山礫凝灰岩や結晶凝灰岩などの火山砕屑岩層からなり、上部は火山礫凝灰岩を主体として、高マグネシウム安山岩の溶岩や砕屑岩類を挟み、下位層である大原谷溶結凝灰岩層の巨大ブロックを多量に含むとともに、石英斑岩や文象斑岩がシート状に貫いている。先濃飛期火成岩類北俣谷閃緑岩濃飛期火成岩類福島谷・秋町花崗岩、大原谷溶結凝灰岩層を覆い、白川花崗岩類(御母衣岩体)に貫かれる。
文献
  • 棚瀬充史・亀井玄人・原山 智(2005)庄川火山-深成複合岩体.地団研専報,53号,143-157頁.
  • 写真 荘川町六厩の六厩川沿いにおけるシツ谷層の流紋岩溶岩
    (撮影:鹿野勘次)
    写真 白川村平瀬の大白川河床におけるシツ谷層に属する凝灰岩質礫岩の転石
    (撮影:小井土由光)
    庄川火山-深成複合岩体
    岐阜県北西部の庄川上流域に約40km×25kmの規模で分布する火山岩類と花崗岩類は、濃飛流紋岩および関連する花崗岩類よりも新しい時期に形成されたものであることが明らかにされ、それらを庄川火山-深成複合岩体と命名して濃飛流紋岩と区別して扱うようになった。ただし、まだ全体にわたる詳細な調査・検討がなされていないため、とくに火山岩類についてはおもに分布域の南部において層序区分がなされているだけであり、それ以外の地域では「未区分火山岩類(S0)」としてある。区分された火山岩類は、下位から、六厩川層、大原谷溶結凝灰岩層、シツ谷層、金谷溶結凝灰岩層、なお谷層、宮谷溶結凝灰岩層に分けられており、前三者が「庄川コールドロン」と呼ばれるコールドロンの外側ユニット(コールドロン外ユニット)を、後三者がコールドロンの内側ユニット(コールドロン内ユニット)をそれぞれ構成している。貫入岩類は、花崗岩ユニットとしてコールドロンの内部および縁辺部を貫いており、それらの産状や岩相上の特徴などから、落部川文象斑岩、白川花崗岩類(鳩ヶ谷・平瀬・森茂岩体)、御母衣環状岩脈の3種類に分けられる。
    高マグネシウム安山岩
    SiO₂量が53%以上で、MgO量が6%以上の化学組成をもつ火山岩を指す。火成岩においては、一般にSiO₂成分の含有量が増えていくとMgO成分の含有量が減っていく。それにもかかわらずMgO成分が多く含まれている岩石は、地球の内部を作るマントル物質がMgO成分に富むことから、それが水を含むことで最初に溶けて形成されるマグマから直接的にもたらされると考えられている。こうした岩石の分布はかなり限られるが、特異な地質条件を知る上で貴重な情報となる。
    六厩川層・大原谷溶結凝灰岩層
    庄川火山-深成複合岩体のコールドロン外ユニットのうち最下部層および下部層をなす。六厩川層は、約30~100mの層厚で、同岩体の南東部にあたる六厩川流域からその北方へかけての地域に分布し、濃飛流紋岩のNOHI-3を構成する下呂火山灰流シートを覆い、凝灰質砂岩・泥岩や細粒ガラス質凝灰岩などからなる連続性の良い砕屑岩層からなる。大原谷溶結凝灰岩層は最大層厚約500mで、六厩川流域からその北方の森茂(もりも)川流域や栗ヶ岳(標高1728m)周辺地域、御母衣(みぼろ)湖周辺地域からその北方の大白川下流域へかけての地域に広く分布し、比較的細粒の斑晶と小型の本質岩片で特徴づけられる流紋岩質の溶結凝灰岩からなり、薄い(20m以内)成層した凝灰岩層をしばしば挟む。非溶結部を介して六厩川層を覆う。
    北俣谷閃緑岩
    御母衣(みぼろ)湖西岸の北俣谷中流域およびその西方のアワラ谷下流域に分布し、石英モンゾ閃緑岩~ハンレイ岩からなる。ほぼ1億年前の形成年代を示し、先濃飛安山岩類を貫き、庄川火山-深成複合岩体の火山岩類に不整合に覆われる。アワラ谷中~上流域からその南方にかけて分布するアワラ谷花崗閃緑岩と異なる岩相を示すが、ほぼ同じ形成年代を示し、一続きの岩体と考えられている。
    福島谷花崗岩
    御母衣湖の西岸にある福島谷入口付近に分布し、優白質の粗粒黒雲母花崗岩からなり、花崗斑岩に近い岩相をともなう。濃飛流紋岩のNOHI-3を構成する下呂火山灰流シートを貫き、それに熱変成作用を与えているが、庄川火山-深成複合岩体のシツ谷層に不整合に覆われ、それに礫として含まれる。御母衣湖の対岸にあたる森茂(もりも)川合流部付近に分布する秋町花崗岩は、庄川に沿って走る御母衣断層により切断されたように分布しているが、本来は一連の岩体であると考えられている。
    秋町花崗岩
    御母衣湖の東岸において森茂(もりも)川合流部付近に分布し、庄川沿いに通る御母衣断層により切断されたように分布しているが、対岸に分布する福島谷花崗岩とは本来は一連の岩体であると考えられている。福島谷花崗岩と似た岩相をもち、優白質の粗粒黒雲母花崗岩からなる。また、庄川火山-深成複合岩体のシツ谷層に不整合に覆われ、それに礫として含まれる。
    白川花崗岩類(御母衣岩体)
    庄川火山-深成複合岩体の花崗岩ユニットの一つをなし、大白川下流域から庄川東岸域を経て、御前岳(標高1816m)周辺地域へかけて、庄川コールドロンを縁どるように南へ膨らんだ半円弧状をなして最大幅約1.5kmで断続的に分布し、さらにその北方延長上の猿ヶ野馬場山(さるがばんばやま)(標高1827m)から木滝谷へかけての地域や大白川下流域から北方へかけて庄川西岸域の山腹にも岩脈として分布する。岩体の中心部は完晶質の角閃石黒雲母花崗閃緑岩からなり、周縁部では斑岩状となる。周囲の火山岩類へは高角度で貫入しており、熱変成作用の及んでいる範囲は狭い。
    コールドロン
    火山活動に関係して形成される凹地をカルデラというが、もともとは地形として認識できる場合に使われる用語であった。そのため、古い時代に形成された火山体で地形上の特徴が削剥されてわからなくなってしまった火山性陥没構造をコールドロンという。最近ではこれらの区別を厳密にしない傾向があり、すべて「カルデラ」と表現されている場合がしばしばみられる。
    先濃飛期火成岩類
    濃飛流紋岩の岩体北西部において手取層群を貫き、後濃飛期火成岩類の庄川火山-深成複合岩体を構成する火山岩類に覆われる火成岩類の存在が明らかになり、いずれもおおよそ1億年前前後の年代値を示すことで、通称「1億年岩石」として注目されるようになった。これらの岩石は、濃飛流紋岩の形成年代(約8,500万年以降)よりも明らかに古く、火山岩類としてはおもに安山岩質の、深成岩類としてはおもに閃緑岩質の組成をそれぞれもち、濃飛流紋岩の岩石学的な性質や化学的な性質においても明確に異なるマグマから形成されたものである。これらの岩石が莫大な量の珪長質マグマの活動でもたらされた濃飛期火成岩類の形成に先行していたことには重要な意味があると理解されているが、まだ充分に解明されているわけではない。
    濃飛期火成岩類
    濃飛流紋岩は、岐阜県の南東端にあたる恵那山(標高2191m)付近から北部の飛騨市古川町付近へかけて、幅約35km、延長約100kmにわたり北西~南東方向にのび、岐阜県の約1/4の面積を占める巨大な岩体である。この岩体を構成する岩石のほとんどは、火砕流として流れ出た火山砕屑物がたまって形成された火砕流堆積物からなり、しかもその大部分は堅硬に固結した溶結凝灰岩になっており、厚さ数百mで、水平方向へ20~60kmの広がりをもち、岩相・岩質が類似した火山灰流シートとして何枚にもわたって重なりあっている。それらは大きく6つの活動期(NOHI-1~NOHI-6)に区分されており、岐阜県内にはNOHI-6だけが分布しない。これらの火山岩類には花崗岩類が密接にともなわれ、それらを含めて大きく2期(第1期火成岩類・第2期火成岩類)に分けられる火山-深成複合岩体を形成している。第1期の活動は白亜紀後期の約8,500万~8,000万年前にあり、NOHI-1とNOHI-2の活動と引き続く花崗岩類の活動があった。第2期の活動は約7,500万~6,800万年前にあり、NOHI-3~NOHI-5(おそらくNOHI-6)の活動と引き続く花崗岩類の活動があった。これらは活動の場所を南部から北部へと移しながら巨大な火山岩体を作り上げた。
    地質年代