地層名 槍ヶ岳結晶片岩【S】 やりがたけけっしょうへんがん
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代表地点 槍岳山荘の南側稜線付近
形成時期 ペルム紀以前
概要    奥飛騨温泉郷地域に分布する飛騨外縁帯構成岩類の一つで、槍岳山荘の南側テント場からその南方の飛騨乗越(のっこし)にかけての飛騨山脈主稜線付近に南北約350m、東西約600mにわたり分布する。おもに苦鉄質火山岩を源岩とする結晶片岩からなり、槍岳山荘周辺に砂岩を源岩とする結晶片岩をともなう。槍-穂高火山穂高安山岩類不整合に覆われること以外に形成時期を明らかにする資料は得られていない。
文献
  • 原山 智・竹内 誠・中野 俊・佐藤岱生・滝沢文教(1991)槍ヶ岳地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,190頁.
  • 写真 槍ヶ岳山荘付近に露出する槍ヶ岳結晶片岩
    (撮影:中田裕一)
    写真 槍ヶ岳結晶片岩の表面
    (撮影:鹿野勘次)
    飛騨外縁帯構成岩類
    飛騨外縁帯は、飛騨帯の南側を取りまくように幅数~30kmほどで細長く分布する地質帯である。岐阜県地域では飛騨山脈の槍ヶ岳(標高3180m)付近から高山市の奥飛騨温泉郷、丹生川町北部~国府町地域、清見町楢谷(ならだに)、郡上市白鳥町石徹白(いとしろ)などに断片的に配列して露出している。そこを構成している岩石はかなり変化に富み、古生代に形成された非変成の砕屑岩類や火山岩類、結晶片岩などからなる変成岩類、超苦鉄質岩(U)から変化した蛇紋岩と呼ばれる岩石などである。これらの岩石は、飛騨帯構成岩類を一部に含めた当時の大陸(中朝地塊と呼ばれる)の東縁で形成された陸棚や浅海性の堆積物および火山砕屑物が中生代ジュラ紀中ごろまでに大規模な横ずれ運動をともなって飛騨帯構成岩類と接するようになり、その過程でもたらされた変成岩類や超苦鉄質岩を断片的にともなって形成されたと考えられている。ただし、飛騨外縁帯と飛騨帯との間には、富山県地域や新潟県地域などにおいて宇奈月帯あるいは蓮華帯と呼ばれる変成岩類で構成された地帯が分布しており、岐阜県地域においてもそれらとよく似た性質の岩石が断片的に分布するが、よくわかっていない点もあるため、ここではすべて飛騨外縁帯の構成岩類として扱う。
    結晶片岩
    広域変成作用により地下深部の高い圧力下で再結晶したことで雲母のような板状の鉱物などが方向性をもって配列し、片理をもつ板状に割れやすい変成岩の一種である。源岩の成分と変成条件により形成された特徴的な変成鉱物の名を冠して石英片岩や緑泥石片岩などと呼ばれたり、源岩の種類を冠して泥質片岩や砂質片岩などと呼ばれる。
    槍-穂高火山
    槍-穂高連峰に分布する穂高安山岩類が、高山市地域に広く分布する丹生川火砕流堆積物の給源にあるコールドロンを埋積した堆積物であり、さらにその西側に分布する滝谷花崗閃緑岩に貫かれ、これらが第四紀前期の火山-深成複合岩体を形成していることで命名された火山である。この火山の活動では、巨大な噴煙にともなわれる降下火砕堆積物は形成されなかったようであるが、丹生川火砕流堆積物の流出に際して上空に噴き上げられた火山灰が「穂高-Kd39」と呼ばれる広域テフラとして房総半島地域にまで飛んでいる。
    穂高安山岩類
    槍-穂高連峰の山稜部を構成し、おもにデイサイト質の溶結凝灰岩からなり、流紋岩質火砕岩、安山岩質溶岩、砕屑岩類をともない、それらに閃緑斑岩や文象斑岩の岩脈・岩床が貫入している。これらは「穂高コールドロン」と呼ばれる南北約19km、東西約6kmの細長いコールドロンを最大層厚3,300m以上で埋積しており、槍-穂高火山の一員として、いわゆる“カルデラ埋積火山岩類”に相当し、そこから溢流したいわゆる“アウトフロー火砕流堆積物”が高山市地域に広く分布する丹生川火砕流堆積物である。
    不整合
    重なった地層の間において著しい堆積間隙のある状態で堆積している場合をいい、実際にはその間に隆起・削剥や深成岩類の貫入、構造運動などの事象が起こっていることに着目して用いられることが多い。整合の対語である。
    地質年代