地層名 松原礫層【cg1】 まつばられきそう
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代表地点 高山市緑ヶ丘町(旧松原町)付近
形成時期 鮮新世~更新世初期
概要    高山盆地西方の丘陵地から南方の大西山地(位山分水嶺)の上、さらにはその南側の高山市朝日町万石(まんごく)付近に分布し、層厚は10~20mである。おもに中~大礫からなる円礫層で、部分的に砂層をともなう。礫種はほとんど濃飛流紋岩であり、花崗斑岩美濃帯堆積岩類もわずかに含まれる。礫の風化が進んでかなり軟らかくなっていることを特徴とする。この礫層は、江名子断層宮峠断層が活動して位山分水嶺が形成される以前の堆積物であり、現在の飛騨川最上流部が宮川水系へ流れていたことを示す堆積物である。
文献
  • 山田直利・足立 守・梶田澄雄・原山 智・山崎晴雄・豊 遥秋(1985)高山地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1図幅),地質調査所,111頁.
  • 写真 高山市緑ヶ丘町に露出する松原礫層
    (撮影:下畑五夫)
    写真 高山市緑ヶ丘町における松原礫層中の風化した礫
    (撮影:下畑五夫)
    濃飛流紋岩
    濃飛流紋岩は、岐阜県の南東端にあたる恵那山(標高2191m)付近から北部の飛騨市古川町付近へかけて、幅約35km、延長約100kmにわたり北西~南東方向にのび、岐阜県の約1/4の面積を占める巨大な岩体である。この岩体を構成する岩石のほとんどは、火砕流として流れ出た火山砕屑物がたまって形成された火砕流堆積物からなり、しかもその大部分は堅硬に固結した溶結凝灰岩になっており、厚さ数百mで、水平方向へ20~60kmの広がりをもち、岩相・岩質が類似した火山灰流シートとして何枚にもわたって重なりあっている。それらは大きく6つの活動期(NOHI-1~NOHI-6)に区分されており、岐阜県内にはNOHI-6だけが分布しない。これらの火山岩類には花崗岩類が密接にともなわれ、それらを含めて大きく2期(第1期火成岩類・第2期火成岩類)に分けられる火山-深成複合岩体を形成している。第1期の活動は白亜紀後期の約8,500万~8,000万年前にあり、NOHI-1とNOHI-2の活動と引き続く花崗岩類の活動があった。第2期の活動は約7,500万~6,800万年前にあり、NOHI-3~NOHI-5(おそらくNOHI-6)の活動と引き続く花崗岩類の活動があった。これらは活動の場所を南部から北部へと移しながら巨大な火山岩体を作り上げた。
    花崗斑岩
    濃飛流紋岩のほぼ岩体全域および岩体周辺の美濃帯堆積岩類の分布地域にわたり小規模な岩脈として分布し、しばしば平行岩脈群をつくる。岐阜県内に分布する代表的なものだけを挙げてると、上之保(かみのほ)-鹿山(かやま)平行岩脈群・東沓部(ひがしくつべ)岩脈群・初納(しょのう)岩脈群・日出雲(ひずも)岩脈群・中之宿岩脈・青屋弧状岩脈のほかに釜戸・大洞谷・門坂(かどさか)・三間山(さんげんやま)・宇津江(うつえ)・黒内の各岩体がある。全体として濃飛流紋岩のどの層準よりも新しい時期に貫入し、濃飛流紋岩を貫く苗木花崗岩などの花崗岩類中にはまったく分布しないことから、花崗岩類の定置以前に貫入したと考えられている。岩相は全体を通じてほとんど一定しており、灰白色の石基中に石英・カリ長石・斜長石・黒雲母およびまれに角閃石の自形斑晶を含む。カリ長石や斜長石の斑晶は長径1~3㎝である。周縁相として斑晶がやや小型化し、石基が隠微晶質となる石英斑岩質を示すものがみられる。
    美濃帯堆積岩類
    美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。
    江名子断層
    高山市山口町付近を中心に、大西山地北麓の江名子断層に沿う幅約2kmの範囲に分布する。層厚は約20mである。ほとんどが大西山地を構成する美濃帯堆積岩類の礫からなり、丹生川火砕流堆積物の礫がわずかに含まれる。径10~20cmの角礫からなり、淘汰が悪く、風化してやや軟らかくなった礫が多い。江名子断層の運動にともなって大西山地が急激に上昇隆起したことで供給された崖錐性堆積物である。
    宮峠断層
    宮峠断層は、旧国道361号(木曽街道)が通る美女峠付近から飛騨一之宮盆地の南縁まで8km以上にわたり延びており、その累積移動量は垂直方向に約200m、水平方向に最大300mとされている。宮峠断層は北側の江名子(えなご)断層とともに両者に挟まれる大西山地(位山分水嶺)を隆起させたことで、それまで北流して日本海に向かって流れていた飛騨川上流部は南流して太平洋へ向かって流れるようになった。久々野町大西と高山市江名子町を結ぶ「県営ふるさと農道」(現国道361号)の敷設工事の際に宮峠断層の破砕帯がみごとに露出し、そこでは断層を境にして北側の大西山地を構成する美濃帯堆積岩類が南側にある若い時代の堆積物(久々野凝灰角礫岩層)にせり上がっている様子がみられた。ただし、この現場は被覆されてしまっている。

    地質年代