鉱山名 伊西陶石 いにしとうせき
所在地 飛騨市神岡町伊西
 対象資源 陶石 (廃鉱)
概 要
   神岡町の中心部から北東に6kmほどにある伊西地区の一画にある鉱山であった。飛騨帯構成岩類の飛騨花崗岩類を珪長質火山岩(おそらく後濃飛期火成岩類と考えられるが、所属不明である)の岩脈が貫いており、それが熱水変質作用を受けて陶石化している。この岩脈は幅約14m、ほぼ垂直で、北北西~南南東方向に延びている。鉱石には石英があまり含まれず、長石が絹雲母に変化して鉄分が溶脱したことで淡青色化し、緻密な陶石となっており、少なくとも1980年代前半までは露天掘りで採掘されていた。ここと類似の地質環境においてほぼ同様の産状を示す陶石鉱床に渋草陶石がある。
伊西陶石跡から得られた陶石
(撮影:石橋祥二)
 
ジオ点描
   陶石は流紋岩やデイサイトなどの酸性火山岩・火砕岩などが熱水変質作用を受けてつくられたもので、石英と白雲母(絹雲母)の微粒集合からなり、カオリナイトなどの粘土鉱物を含むこともある。陶磁器原料、耐火材などとして採掘されており、良質なものは粉砕して水を加えると可塑性の高い粘土になり、他に添加物がなくても均一に焼結して磁器となる。
神岡町伊西にある伊西陶石の採掘場(1981年当時)
(撮影:鹿野勘次)
 
文 献 下坂康哉(1978)東海北陸地方の窯業原料.地質ニュース,283号,50-62頁.  
飛騨帯構成岩類
飛騨帯は、岐阜県の北部から北陸地方へかけての地域に広がる変成岩類と花崗岩類からなる地質帯である。ただし、これらの構成岩類がこの地域のどこにでも分布しているわけではなく、それ以降に形成された岩石類に覆われたり貫かれているために、実際にはかなり限られた地域にだけ分布する。変成岩類は総称して「飛騨片麻岩類」と呼ばれ、それらを形成した広域変成作用の時期についてはいくつかの見解があるが、おおよそ3億年~4億5000万年前(古生代石炭紀・シルル紀・デボン紀)と2億4000万年前ごろの少なくとも2回にわたり重複した変成作用で形成されたとされている。花崗岩類はこれまで「船津花崗岩類」と呼ばれ、1億8000万年前(中生代ジュラ紀)に飛騨外縁帯構成岩類の分布域にまで及ぶ範囲に一斉に貫入したことで飛騨片麻岩類に熱変成作用をもたらしたと考えられてきた。しかし、それらの中には古い年代を示す岩体もあり、一律に扱うことができないことがわかってきたため、それらの形成時期を少なくとも2期に分けて区別するようになった。変成岩類も花崗岩類も複数回におよぶ複雑な過程を経て形成されているために、すべての飛騨帯構成岩類を全域にわたって一定の基準で表現することはかなりむずかしいことから、ここではそれらを「飛騨変成岩類」、「飛騨花崗岩類」と呼び、それぞれを6種類と10種類の岩相に区分することで表現する。そのため1つの岩相で示される岩石の中にも別の変成・深成作用で形成された岩石が含まれている場合もある。

後濃飛期火成岩類
飛流紋岩の岩体周辺にあって、それとよく似た岩石で構成されている火成岩体として、北西側に庄川火山-深成複合岩体、西側に奥美濃酸性岩類と白鳥流紋岩、北東側に大雨見層群と笠ヶ岳コールドロンがそれぞれある。それらの火成活動史が明らかにされるとともに、多くの年代測定値が得られるようになったことで、その主要な活動時期が濃飛流紋岩より新しい古第三紀であることが明確となった。それらをここでは後濃飛期火成岩類と呼ぶ。これらのうち多くの岩体は火山岩類と深成岩類からなる火山-深成複合岩体を構成している。

渋草陶石
微細な石英や長石からなる珪長質火山岩(おそらく大雨見山層群に属する岩脈)の幅7~17mの岩脈が数本にわたり飛騨帯構成岩類の飛騨花崗岩類を貫いており、それらが熱水変質作用を受けて形成された陶石で、長石のほとんどが絹雲母に変化している。この地域の周辺には類似の陶石鉱床があり、ほぼ同様の産状を示すものに伊西(いにし)陶石がある。
地質年代