鉱山名 春日鉱山 かすがこうざん
所在地 揖斐川町春日川合
 対象資源 石灰石・ドロマイト (廃鉱)
概 要
   旧春日村の中心部にあたる川合地区を粕川に沿って1kmほど北へさかのぼった県道32号春日揖斐川線沿いに廃坑跡がみられる。岐阜・滋賀県境に分布する貝月山花崗岩美濃帯堆積岩類を貫いて周囲の幅2.5~3kmほどの範囲に強い熱変成作用を与えており、その南東側に帯状に分布する石灰岩が交代作用を受けて作られたスカルン鉱床を稼行対象とした鉱山であった。ドロマイトや珪灰石を産出しており、とくにガラス加工に適した不純物の少ないドロマイトが採れたことで知られている。1951(昭26)年に採掘が始まり、美束(みつか)坑、白河抗、中山抗があり、白河抗は比較的最近まで小規模に稼働していた。美束坑や中山抗には大型の採掘遺構が県道脇に残されている。
春日鉱山に露出する珪灰石
(撮影:木澤慶和)
 
ジオ点描
   スカルン鉱床は石灰岩が花崗岩質岩石からの熱水による交代作用を受けて形成される。その中には神岡鉱山洞戸(ほらど)鉱山のような金属資源を形成する鉱床もあるが、非金属資源として形成される代表例がドロマイト(CaMg(CO₃)₂)であり、交代作用で石灰岩(CaCO₃)中のカルシウム(Ca)が反応してマグネシウム(Mg)に置き換わったものである。
春日鉱山から産出した珪灰石
(岐阜県博物館所蔵、撮影:棚瀬充史)
 
文 献 榎並正樹・纐纈佑衣・加藤丈典・壺井基裕・丹羽健文 (2021) 岐阜県西部・揖斐川町春日地域の火成岩と接触変成岩.地質学雑誌,127巻,313-331頁.
加藤 昭・松原 聡・野村松光(1989)岐阜県春日村のドロマイトスカルン鉱物など.鉱物採集の旅 東海地方を訪ねて,築地書館,117-123頁.
 
貝月山花崗岩
岐阜・滋賀県境付近にある貝月山(標高1234m)周辺地域に南北約14km、東西約11.5kmの規模で分布し、その東側にも南北約4km、東西約1.5kmの大きさで小岩体が分布し、両者は地下で連続していると考えられている。おもに粗粒塊状で等粒状の花崗岩~花崗閃緑岩からなり、中心部で斑状となる。また、東側の小岩体ではやや細粒となる。周囲に分布する美濃帯堆積岩類を貫き、著しい熱変成作用を与えているが、岩体の北部と東部あるいは東側小岩体において貫入面が緩やかになる傾向を示す。濃飛流紋岩と接していないために関係はわからないが、形成年代値から“先濃飛期”の深成岩体と判断される。
美濃帯堆積岩類
美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。
石灰岩
美濃帯堆積岩類の中には、金生山の赤坂石灰岩、舟伏山地域の舟伏山石灰岩、石山地域の石山石灰岩などと呼ばれる比較的大きな石灰岩の岩体が分布しており、石灰石資源として採掘されていたり、場所によっては鍾乳洞地帯を形成している。古生代のペルム紀に形成された緑色岩(玄武岩質火山岩類)からなる海山を覆うサンゴ礁を構成していた石灰質生物の遺骸が集積して形成されたものであり、一般に緑色岩と密接にともなって美濃帯堆積岩類の中では最も古い時期に形成された岩石である。
スカルン鉱床
石灰岩などの炭酸塩岩が花崗岩などの貫入によりもたらされる熱水により交代作用を受けて形成される熱水鉱床の一種で、スウェーデンの鉱山用語に由来している。熱水からもたらされた珪酸(SiO₂)、アルミナ(Al₂O₃)、鉄(Fe)などの成分と炭酸塩岩が反応して生じたカルシウムまたはマグネシウム質珪酸塩鉱物の集合体をスカルン鉱物といい、単斜輝石、ザクロ石、緑れん石などがある。その際に鉄や銅をはじめ亜鉛や鉛などの有用な金属を含む鉱石鉱物が一緒にもたらされる。


神岡鉱山
鉱山の歴史は古く、採掘は奈良時代に始まる。1874(明7)年に当時の三井組が本格的な開発をはじめ、近代的な手法により大規模な採掘がなされ、約130年間の総採掘量は7,500万トンにも達している。一時は東洋一の鉱山として栄えたが、2001(平13)年6月に鉱石の採掘を中止した。飛騨帯構成岩類の飛騨変成岩類のうち、おもに結晶質石灰岩を火成岩起源の熱水が交代したスカルン鉱床を稼行対象とした鉱山で、栃洞(とちぼら)坑、茂住(もずみ)坑、円山(まるやま)坑などの鉱床がある。亜鉛鉱石の主要鉱物である閃亜鉛鉱に含まれるカドミウムを原因とする公害病「イタイイタイ病」が下流域の富山県神通川流域で大規模に発生したことはよく知られている。また、茂住坑の跡地はスーパーカミオカンデとしてニュートリノ観測装置に利用されている。なお、2007年に日本地質学会により「日本の地質百選」に選定されている。
洞戸鉱山
奥美濃酸性岩類の活動にともなわれる花崗斑岩や石英斑岩の岩脈類が美濃帯堆積岩類を貫き、その中の石灰岩の岩体との交代作用により形成されたスカルン鉱床を稼行対象とした鉱山である。閃亜鉛鉱、方鉛鉱、黄銅鉱などを産出し、これらにともなって透輝石の美晶や水晶の日本式双晶が産出することで知られている。1910(明43)年に採掘が開始され、1920(大9)年に閉山された。柿野鉱山とは尾根を隔てた反対側にあり、鉱床の産状はよく似ている。
熱変成作用
既存の岩石が熱いマグマと接触して岩石組織や組成を変えられてしまう現象で、接触変成作用ともいう。この作用で形成された岩石を熱変成岩あるいは接触変成岩といい、これを「ホルンフェルス」と呼ぶこともある。これはドイツ語で、ホルン=角のように固くなったフェルス=様子を意味しており、もともとは泥岩を源岩とする熱変成岩に用いられた用語であるが、すべての熱変成岩に用いられることが多い。熱をもたらすマグマは接触した岩石に熱を奪われて冷却していくから、熱変成作用は花崗岩体を形成するような大きな容量をもつマグマの周辺で起こりやすい。
地質年代