鉱山名 平岩鉱山 ひらいわこうざん
所在地 関市上之保平岩
 対象資源 蛍石 (廃鉱)
概 要
   津保川上流部において上之保平岩の集落から東へ500mほどの地点で合流する杉之洞を1kmほどさかのぼったところにあった鉱山である。濃飛流紋岩にともなわれる花崗斑岩の岩脈が美濃帯堆積岩類泥岩中に貫入した際に割れ目に沿って石英脈が充填し、それにともなって一部に脈状に胚胎した蛍石を稼行していた。1950(昭25)年から採掘が始まり、最盛期の1961(昭36)年には年間数千トンの蛍石(品位CaF₂ 50~75%)を搬出したとされ、全国生産の60%を占めていたが、生産量の減少から1973(昭48)年に閉山された。蛍石に含まれるフッ素(F)には鉄の融解温度を下げる性質があり、それを生かして製鉄の過程で鉄鉱石の溶剤として蛍石が使われていた。現在はズリ跡や鉱山施設の遺構らしきものが残っているが、危険防止もあり採集のための入山は禁止されている。なお,尾根を挟んで東側の下呂市金山町笹洞(ささぼら)には同じ鉱脈を掘った笹洞鉱山があった。
平岩鉱山から産出した蛍石
(撮影:加藤十良)
 
ジオ点描
   蛍石は加熱すると発光することで、それが蛍のようだということで名付けられた鉱物である。鉱物に熱や破砕などの刺激を与えるとそのエネルギーの一部を可視光エネルギーに転換して放出する現象をルミネッセンス(発光性)という。原子内において基底状態にある電子が外部からの刺激により励起状態となり、それが元の基底状態に戻る際に光を発する現象である。
平岩鉱山から得られた蛍石に紫外線を照射(右側)
(撮影:加藤十良)
 
文 献 五十嵐俊雄(1959)岐阜県平岩地区ほたる石鉱床調査報告.地質調査所月報,10巻,893-898頁.  
濃飛流紋岩
濃飛流紋岩は、岐阜県の南東端にあたる恵那山(標高2191m)付近から北部の飛騨市古川町付近へかけて、幅約35km、延長約100kmにわたり北西~南東方向にのび、岐阜県の約1/4の面積を占める巨大な岩体である。この岩体を構成する岩石のほとんどは、火砕流として流れ出た火山砕屑物がたまって形成された火砕流堆積物からなり、しかもその大部分は堅硬に固結した溶結凝灰岩になっており、厚さ数百mで、水平方向へ20~60kmの広がりをもち、岩相・岩質が類似した火山灰流シートとして何枚にもわたって重なりあっている。それらは大きく6つの活動期(NOHI-1~NOHI-6)に区分されており、岐阜県内にはNOHI-6だけが分布しない。これらの火山岩類には花崗岩類が密接にともなわれ、それらを含めて大きく2期(第1期火成岩類・第2期火成岩類)に分けられる火山-深成複合岩体を形成している。第1期の活動は白亜紀後期の約8,500万~8,000万年前にあり、NOHI-1とNOHI-2の活動と引き続く花崗岩類の活動があった。第2期の活動は約7,500万~6,800万年前にあり、NOHI-3~NOHI-5(おそらくNOHI-6)の活動と引き続く花崗岩類の活動があった。これらは活動の場所を南部から北部へと移しながら巨大な火山岩体を作り上げた。
花崗斑岩
濃飛流紋岩のほぼ岩体全域および岩体周辺の美濃帯堆積岩類の分布地域にわたり小規模な岩脈として分布し、しばしば平行岩脈群をつくる。岐阜県内に分布する代表的なものだけを挙げてると、上之保(かみのほ)-鹿山(かやま)平行岩脈群・東沓部(ひがしくつべ)岩脈群・初納(しょのう)岩脈群・日出雲(ひずも)岩脈群・中之宿岩脈・青屋弧状岩脈のほかに釜戸・大洞谷・門坂(かどさか)・三間山(さんげんやま)・宇津江(うつえ)・黒内の各岩体がある。全体として濃飛流紋岩のどの層準よりも新しい時期に貫入し、濃飛流紋岩を貫く苗木花崗岩などの花崗岩類中にはまったく分布しないことから、花崗岩類の定置以前に貫入したと考えられている。岩相は全体を通じてほとんど一定しており、灰白色の石基中に石英・カリ長石・斜長石・黒雲母およびまれに角閃石の自形斑晶を含む。カリ長石や斜長石の斑晶は長径1~3㎝である。周縁相として斑晶がやや小型化し、石基が隠微晶質となる石英斑岩質を示すものがみられる。
美濃帯堆積岩類
美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。
蛍石
CaF₂の組成をもち、花崗岩質マグマなどの末期晶出鉱物として産する。紫外線を照射すると強い燐光を発する。物を容易に溶かすための融剤として製鉄用融剤などに利用されている。“蛍光”という用語はこの鉱物に由来する。
泥岩
美濃帯堆積岩類において、海洋プレートが大陸縁辺に近づき、海溝で沈み込んでいく際に陸域から供給される砕屑物である。それぞれが単独の地質体を作る場合もあれば、互層をなす場合もあり、前者においては厚い砂岩層としてしばしば産する。これらの多くは海底地すべりにより混濁流としてもたらされたタービダイトを形成している。
地質年代