対象物  美濃の壺石 みののつぼいし
場 所 土岐市土岐津町神明(しんめい)峠付近
 指定者  指定年月日 1934(昭9)年1月22日
概 要
   瀬戸層群の上部層を構成している土岐砂礫層の内部で、地下水に溶け込んだ珪酸(SiO₂)成分や渇鉄鉱が礫の周囲に付着して径20~30cmの球状に固められ、内部につまった砂が抜けて中空の壺のような形状になったものや半球形になったものが指定されている。礫や砂が渇鉄鉱で板状に固められたものは「鬼板」と呼ばれている。土岐砂礫層中に小規模にはさまれて分布する粘土層は水を通しにくいため、その上に重なる礫層中にためられる水から鉄分が沈着し、礫の周囲に褐鉄鉱が付着しやすくなる。粘土層はとりわけ土岐砂礫層の下部に顕著にみられ、壺石はそこに比較的多く見られる。なお、これとほぼ同じ生成過程をもち、同じ瀬戸層群の下部層を構成している土岐口陶土層の粘土層中にあって径数~十数cmのやや脹らみのある扁平な楕円球状をなす岩塊は「瑞浪の鳴石」と呼ばれ、岐阜県指定の天然記念物(1960(昭35)年10月3日指定)となっている。乾燥した状態で振るとコトコトと音がすることからこの名があるが、現在はほとんど採取できず、現品を確認することはむずかしい。
土岐市土岐津町の神明峠付近から産出した壺石
(撮影:鹿野勘次)
ジオ点描
   礫岩のように目に見える大きさのものが集まって一つの岩塊をなすと、目立つこともあり特異な存在となる。それがさらに空洞をなしているとなると、特異を通り越して奇妙な存在となり特別視されていく。それらはあくまでも自然の産物であり、常時造り出されるわけではないから珍しい存在となっていく。さらにはよほど注意を払わないと消滅していってしまうこともあるから、貴重な存在になるようである。
 
文 献  
瀬戸層群
東海層群のうち濃尾平野の地下を含めて伊勢湾以東の地域に分布する地層群で、岐阜県地域では東濃地方に分布し、下部層をなす土岐口陶土層と上部層をなす土岐砂礫層からなる。この地域では火山灰層がほとんど含まれないことで、内部層序あるいは地層対比がむずかしく、近接した地域でも堆積物相互の関係が明確にできない。
土岐砂礫層
瀬戸層群の上部層を構成し、東濃地方の広大な東濃準平原を形成した河川が運び込んだ大量の礫により形成された砂礫層で、かなり広範囲にわたって分布する。層厚は数十~100mである。場所により礫種に差異があり、おもに濃飛流紋岩からなるタイプとおもに美濃帯堆積岩類のチャートからなるタイプがあるが、内部での層序や層相の関係はよくわかっていない。礫径は濃飛流紋岩で10cm前後、美濃帯堆積岩類で数~20cmであり、ほとんどが円磨度の進んだ円礫からなる。最大の特徴は、チャート礫を除いて、含まれている礫が風化してきわめて軟らかくなっていることであり、チャート礫だけが堅固なまま残されているため、それだけを含む礫層のように見える。
土岐口陶土層
瀬戸層群の下部層を構成し、土岐市土岐津町土岐口周辺から多治見市へかけての地域に分布し、それより東方の瑞浪市・恵那市・中津川市の地域に点在して分布する。層厚は20~30mであり、粘土層を主体とする地層からなる。粘土層は、おもに石英粒を含む粘土(蛙目(がえろめ)粘土)、炭質物を含む粘土(木節(きぶし)粘土)、石英砂(珪砂)に分けられ、それらの層序や層相は場所によりかなり異なり、対比もむずかしい。これらは一辺が数~十数kmの小さい凹地に分かれて分布し、それぞれで耐火粘土鉱床として採掘されていったが、やがて枯渇することで多くの地域で廃鉱となっている。


地質年代