対象物  鏡岩 かがみいわ
場 所 岐阜市加野(かのう)
 指定者 岐阜県  指定年月日 1958(昭33)年7月16日
概 要
   岐阜市加野の長良川右岸(北岸)には旧県道94号岐阜美濃線の短いトンネルがあり、その脇にコンクリートに被覆された岩盤が広がっている。この岩盤は美濃帯堆積岩類チャート層からなり、その中にある小さな谷に沿って形成されている断層面が指定されている。チャートのような堅硬な岩石が地下深部の比較的高い圧力下で断層として動くと、断層面の両側が互いにこすられて磨かれ、鏡のように光沢のある滑らかな研磨面を作る。こうした断層面を“鏡肌(かがみはだ)”といい、そこに名称の由来がある。高圧下の地下深部で作られたことを考えると、この鏡肌は美濃帯堆積岩類が付加体を形成した時期の運動にともなうものと思われるが、詳しいことはわかっていない。ここでは約4m四方に広がっていた鏡肌が2ヶ所みられたが,現在は地表に露出したことでかなり風化してしまい、鏡のような光沢面はほとんどなくなっている。
岐阜市加野にある鏡岩
(撮影:鹿野勘次)
ジオ点描
   断層というと地表で大地がずれている場所を想定しがちであるが、ずれた断層面はそのまま地下へ向かって広がっているから、地下の様子が観察できればそれも断層のすがたとなる。地表で垂直な断層面を作っていても地下へ向かうと徐々に緩傾斜になるようなことだってありうる。さらには、地表付近と地下深部では圧力などの形成条件が異なるため、見かけのすがたも変わってくる。
 
文 献  
美濃帯堆積岩類
美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。 超丹波帯は、近畿地方において丹波帯(中部地方の美濃帯に相当)とその北側にある舞鶴帯と呼ばれる構造帯との間に存在し、丹波帯が中生代ジュラ紀に付加作用を受けて形成された付加体堆積物で構成されているのに対して、おもに古生代ペルム紀に付加作用を受けて形成された付加体堆積物で構成されている地質帯である。中部地方においては、美濃帯の北縁部で福井県の南条地域と岐阜県の高山市丹生川町地域で分布が確認されているだけである。
チャート
一般には硬く緻密な微粒珪質堆積岩の総称であり、美濃帯堆積岩類を構成する主要な岩石の一つとして特徴的に産する。厚く層状に分布することが多く、これを層状チャートと呼ぶ。一部に古生代ペルム紀のものも含まれるが、ほとんどは中生代三畳紀~ジュラ紀前期に海底に堆積した放散虫などのプランクトンからなる遠洋性の堆積物で、陸源砕屑物をまったく含まない。



地質年代