対象物  横山楡原衝上断層 よこやまにれはら
しょうじょうだんそう
場 所 飛騨市神岡町横山
 指定者  指定年月日 1941(昭16)年10月3日
概 要
   岐阜・富山県境沿いにかなり広範囲にわたって北西~南東方向に延びる衝上断層を境にして、中生代ジュラ紀に形成された飛騨帯構成岩類の飛騨花崗岩類がそれより若い中生代白亜紀前期に形成された手取層群の上に乗り上げている。とりわけ神岡町横山の高原川河床では、飛騨花崗岩類が35°ほどの傾斜角度で南西側から手取層群に乗り上げている様子がみられ、そこが指定されている。衝上断層は、大地を押す力により形成された逆断層のうち断層面の傾斜が低角度のものを指し、形成時代の若い地質体の上に古い地質体が載る逆転現象となって現れる。それだけ大規模な大地の運動があったことを示しているが、この衝上断層が示す大規模な運動の性格はよくわかっていない。また、その形成時期は手取層群形成直後の白亜紀中頃と推定されているが、正確にはわかっていない。
神岡町横山の高原川右岸における横山楡原衝上断層
(撮影:下畑五夫)
ジオ点描
   地球の表層部には常に何らかの力が働いており、大地には押すか、引っ張るかのいずれかの力が働いている。日本列島の形成過程においては、付加体の形成をはじめとして押され続けている機会が多いと考えられ、逆断層さらには衝上断層が形成されやすい環境にある。引っ張られる機会、すなわち正断層を形成するような機会は意外に少なかったようである。
 
文 献
衝上断層
押される力により形成された逆断層のうち、断層面の傾斜が低角度(45°以下)のものを指し、低角逆断層とも呼ばれる。大規模なものでは百kmオーダーで変位しているものもあり、かなり広範囲に及ぶ事例が多い。断層面を境に形成時代の若い地質体の上に古い地質体が異地性岩体として載る逆転現象となって現れる。

手取層群
手取層群は、福井県東部から石川県南東部、岐阜県北部、富山県南部へかけての地域に分かれて分布し、中生代のジュラ紀前期から白亜紀前期にかけての時代に形成された海成~陸成の地層である。おもに砂岩・泥岩・礫岩などの砕屑岩類からなり、恐竜などの爬虫類化石を産出することで知られる。大きくみると浅海成層から陸成層へと移り変わっていることで、これまでは3つの亜層群(九頭竜・石徹白(いとしろ)・赤岩亜層群)に区分されていた。しかし、これら3亜層群の区分に関しては、形成時代の見直しが化石(特にアンモナイト化石)に基づいて進められてきたことで、堆積環境の変遷も含めていくつかの見解が示されており、それにともなっていくつかの層序区分の考えが示されてきた。ここではこれまでに一般的に用いられてきた3亜層群の名称をそのまま用い、形成時期に重点をおいた区分として、九頭竜・石徹白亜層群の境界をほぼ中生代ジュラ紀と白亜紀の境界(約1億4,550万年前)、石徹白・赤岩亜層群の境界をほぼ白亜紀前期の約1億2,500万年前として表現する。ただし、分かれて分布する個々の地域すべてから時代決定に有効な化石が産出するわけではなく、年代測定の問題も含めて課題の残された地域もあるため、ここでは現段階での資料に基づいて区分し、時代不明の未区分層(Tu)として扱う地域もある。岐阜県地域において区分できる地域では、九頭竜亜層群は分布せず、石徹白・赤岩亜層群が分布し、それぞれ石徹白亜層群相当層、赤岩亜層群相当層として記述する。
逆断層
大地に力が加わって壊され、特定の面に沿ってずれて食い違いが生じた状態を断層といい、食い違いが垂直方向に生じた「縦ずれ断層」と水平方向に生じた「横ずれ断層」に大別される。そのうち縦ずれ断層において、引っ張る力により生じた場合を「正断層」、押す力により生じた場合を「逆断層」という。これを実際に見える断層のずれ方で表現すると、前者は断層面を境に上側(上盤)が下側(下盤)に対してずれ下がる場合、後者はずれ上がる場合となる。
飛騨帯構成岩類
飛騨帯は、岐阜県の北部から北陸地方へかけての地域に広がる変成岩類と花崗岩類からなる地質帯である。ただし、これらの構成岩類がこの地域のどこにでも分布しているわけではなく、それ以降に形成された岩石類に覆われたり貫かれているために、実際にはかなり限られた地域にだけ分布する。変成岩類は総称して「飛騨片麻岩類」と呼ばれ、それらを形成した広域変成作用の時期についてはいくつかの見解があるが、おおよそ3億年~4億5000万年前(古生代石炭紀・シルル紀・デボン紀)と2億4000万年前ごろの少なくとも2回にわたり重複した変成作用で形成されたとされている。花崗岩類はこれまで「船津花崗岩類」と呼ばれ、1億8000万年前(中生代ジュラ紀)に飛騨外縁帯構成岩類の分布域にまで及ぶ範囲に一斉に貫入したことで飛騨片麻岩類に熱変成作用をもたらしたと考えられてきた。しかし、それらの中には古い年代を示す岩体もあり、一律に扱うことができないことがわかってきたため、それらの形成時期を少なくとも2期に分けて区別するようになった。変成岩類も花崗岩類も複数回におよぶ複雑な過程を経て形成されているために、すべての飛騨帯構成岩類を全域にわたって一定の基準で表現することはかなりむずかしいことから、ここではそれらを「飛騨変成岩類」、「飛騨花崗岩類」と呼び、それぞれを6種類と10種類の岩相に区分することで表現する。そのため1つの岩相で示される岩石の中にも別の変成・深成作用で形成された岩石が含まれている場合もある。
地質年代