対象物  材木岩 ざいもくいわ
場 所 高山市上宝(かみたから)町双六(すごろく)
 指定者 高山市  指定年月日 1968(昭43)年6月14日
概 要
   高原川支流の双六川をその合流点から10kmほどさかのぼったところに双六ダムがあり、そのやや下流にあたる位置から双六川を渡って南の山中を登る林道の奥に横約30m、高さ約4mにわたり露出している岩壁がそのまま指定されている。この岩壁は上宝火砕流堆積物(65万~100万年前)の溶結凝灰岩に形成された柱状節理でできている。柱状節理は、熱い状態で堆積した火山噴出物が地面あるいは空気に触れて冷却する際にその接触面にほぼ垂直に形成されることが多く、下呂市小坂町の巌立(がんたて)は御嶽火山の溶岩流が垂直に並んだ柱状節理を作っている典型例である。ところがここではその“柱”が倒れたように斜めになっており、材木を横積みしたようにみえることでその名があるが、ここで横になっている理由はよくわかっていない。柱状節理の形成に関しては、冷却過程における体積の収縮あるいは複雑な熱対流の仕組みによるなどの考えが一般的に示されているが、最近では比較的低温になってからの岩体内部の発泡膨張で形成されるとする考えも提案されている。正式には「材木石」らしいが、「材木岩」として指定されている。
上宝町双六にある材木岩
(撮影:鹿野勘次)
ジオ点描
   火砕流の噴出量が多くなり堆積物が厚くなると、自らの重さが増えることで圧縮されて互いにくっついていく。これが溶結作用である。火砕流の主体をなす火山灰はおもにガラス片からなり、溶結作用によりガラス片は互いにくっついてかなり堅硬な溶結凝灰岩となる。この岩石は高温状態から冷却していく過程で溶岩流と同じようにしばしば柱状節理を形成していく。
 
文 献 山田直利・足立 守・梶田澄雄・原山 智・山崎晴雄・豊 遥秋(1985)高山地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,111頁.
上宝火砕流堆積物
高原川・宮川流域の500km²にもおよぶ広範囲にわたり分布し、上宝火山の活動において、先行する福地凝灰角礫岩層の形成に引き続いて貝塩給源火道から40km³以上の噴出量でもたらされた流紋岩質の火砕流堆積物である。八本原などに典型的な火砕流台地を形成している。堆積物は1回の冷却単位で形成された溶結凝灰岩からなり、最大層厚が200m以上で、東部では最下部に約30mの厚さで非溶結部をともなう。
溶結凝灰岩
火砕流によりもたらされた堆積物が溶結作用を受けると、その程度により強溶結、弱溶結、非溶結凝灰岩となり、一般には強溶結凝灰岩をさしていう。おもに火山灰が集まって形成された岩石ではあるが、強く圧密化した岩石となり、きわめて堅硬な岩石となる。
巌立
御嶽山の西側斜面を流れ下る濁河(にごりご)川と椹(さわら)谷の合流点にある高さ約72m、幅約120mの大岩壁である。御嶽火山噴出物のうち新期御嶽火山を構成する摩利支天火山群に属する噴出物で、約54,000年前に約17km流れ下った安山岩質の溶岩流の末端部にあたる。岩壁は、溶岩が冷えて固まったときにできる柱状節理からなり、太さ数十cmの柱が並んでいるように見える。付近一帯は巌立峡と呼ばれ、三ツ滝など数多くの滝をもつ峡谷として知られている。
御嶽火山
岐阜・長野県境にあって南北約20km、東西約15kmの範囲に広がる山体をなす。それぞれ数万年ほどの活動期間をもつ古期御嶽火山と新期御嶽火山からなり、両者の間に約30万年にわたる静穏期があり、現在も約3万年にわたる静穏期にあたっている。
火砕流
火山噴火において噴煙と同じものが溶岩のように地面に沿って流れる現象である。噴煙の中には火山灰(ガラス片)のほかにマグマのかけらに相当する軽石や噴火の際に取り込まれる既存の岩石などが入っており、それらの固体をまとめて火山砕屑物といい、それらが火山ガス(ほとんど水蒸気)と混ざった状態で地表面に沿って流れる現象である。これによってもたらされた堆積物を火砕流堆積物という。火砕流はきわめて流動性に富む状態で運ばれるために、高温状態のまま高速で運ばれることになり、溶岩流などの噴火現象に比べるとはるかに危険な現象と理解しておかなければならない。
地質年代