対象物  牛丸ジュラ紀化石 うしまるじゅらきかせき
場 所 高山市荘川町牛丸
 指定者 岐阜県  指定年月日 1959(昭34)年11月16日
概 要
    高山市荘川町牛丸付近の庄川沿いには手取層群石徹白亜層群相当層に属する牛丸層と呼ばれる地層が広く露出しており、その中に密集して含まれるカキやシジミの化石が指定されている。これらは内湾や河口のような汽水性の環境を示す化石であり、生息域でそのまま化石になった現地性のカキの化石も見られる。指定当時には牛丸層は中生代ジュラ紀の地層と考えられていたが、現在ではやや新しく、中生代白亜紀の地層と考えられている。また、指定後に庄川の下流側に御母衣(みぼろ)ダムが建設されたことにより豊富な化石を含む部分の牛丸層は水没してしまったため、含まれている化石類は湖岸にある展示建物で見学できるようになっている。なお、これと同時に岐阜県が指定した天然記念物として「尾神郷(おがみごう)ジュラ紀化石」があり、これは庄川支流の尾神郷川中流域とその支流域に分布する手取層群に含まれるシダ植物や裸子植物などの植物化石を主とする化石群である。
荘川町牛丸の庄川沿いに露出する手取層群牛丸層中のシジミ化石(通称ツメ石)
(撮影:木澤慶和)
ジオ点描
   ジュラ紀は恐竜にまつわるSF映画“ジュラシック・パーク”で有名になったこともあり、恐竜が注目されがちな地質時代であるが、この時期に繁栄した最もなじみのある化石はアンモナイトであり、イチョウ、ソテツなどの裸子植物である。これらの化石は日本ではおもに陸棚性堆積物(手取層群など)から産出しており、同時期に形成された付加体堆積物(美濃帯堆積岩類など)からはほとんど産出していない。
荘川町牛丸にある天然記念物の展示建物
(撮影:小井土由光)
 
文 献 松川正樹・中田恒介(1999)手取層群の分布域中央部の層序と堆積環境の変遷-非海生軟体動物化石群集に基づいて-.地質学雑誌,105巻,817-835頁.
手取層群
手取層群は、福井県東部から石川県南東部、岐阜県北部、富山県南部へかけての地域に分かれて分布し、中生代のジュラ紀前期から白亜紀前期にかけての時代に形成された海成~陸成の地層である。おもに砂岩・泥岩・礫岩などの砕屑岩類からなり、恐竜などの爬虫類化石を産出することで知られる。大きくみると浅海成層から陸成層へと移り変わっていることで、これまでは3つの亜層群(九頭竜・石徹白(いとしろ)・赤岩亜層群)に区分されていた。しかし、これら3亜層群の区分に関しては、形成時代の見直しが化石(特にアンモナイト化石)に基づいて進められてきたことで、堆積環境の変遷も含めていくつかの見解が示されており、それにともなっていくつかの層序区分の考えが示されてきた。ここではこれまでに一般的に用いられてきた3亜層群の名称をそのまま用い、形成時期に重点をおいた区分として、九頭竜・石徹白亜層群の境界をほぼ中生代ジュラ紀と白亜紀の境界(約1億4,550万年前)、石徹白・赤岩亜層群の境界をほぼ白亜紀前期の約1億2,500万年前として表現する。ただし、分かれて分布する個々の地域すべてから時代決定に有効な化石が産出するわけではなく、年代測定の問題も含めて課題の残された地域もあるため、ここでは現段階での資料に基づいて区分し、時代不明の未区分層(Tu)として扱う地域もある。岐阜県地域において区分できる地域では、九頭竜亜層群は分布せず、石徹白・赤岩亜層群が分布し、それぞれ石徹白亜層群相当層、赤岩亜層群相当層として記述する。
石徹白亜層群相当層
手取層群を形成時期で区分した場合の中部層にあたり、中生代白亜紀前期の前半にあたる時期に形成された地層群である。海成層と陸成層が繰り返されながら、やがて陸成層が卓越していくような堆積環境の変遷がみられる。岐阜県内においては、高山市荘川町の尾神郷(おがみごう)川下流地域および御手洗川地域や白川村の白山(標高2702m)東麓地域で比較的広く分布し、かつては九頭竜亜層群とされ、岐阜県の天然記念物「牛丸ジュラ紀化石」を含む牛丸層やアンモナイト化石を産する海成層(御手洗層など)などがここに分布する。また、飛騨市河合町・古川町から高山市国府町・上宝(かみたから)町へかけての地域にも帯状に分布し、さらには高山市奥飛騨温泉郷栃尾地域にも分布する。
御母衣ダム
庄川にある水力発電専用のダムで、第二次世界大戦後の電力不足を解消するために、国家的プロジェクトとして建設された日本最初の大型ロックフィルダムである。堤体基礎は庄川火山-深成複合岩体のシツ谷層からなる。ただし、活断層という認識がなかった時代に建設されたこともあり、堤体の右岸(東岸)寄りの位置を御母衣断層が庄川沿いに走っている。建設計画の段階でこの断層の分布や性状が確認されたことから、外国人専門家の意見などをもとに、支持力に対する優位性と遮水工の確実性、ダム近傍から建設材料が得られることからダム型式をロックフィルダム型式とした。堤体材料は、上流2km左岸(西岸)に分布する福島谷花崗岩をロック材料に、同3km右岸(東岸)に分布する秋町花崗岩の風化部を土質遮水壁材料とした。現在もそれらの採掘跡が確認できる。
美濃帯堆積岩類
美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。

地質年代