対象物  シカマイア  しかまいあ
場 所 本巣市根尾下大須(しもおおす)
 指定者 本巣市  指定年月日 1994(平6)年11月1日
概 要
   シカマイアの学名は”Shikamaia akasakaensis”で、金生山の赤坂石灰岩から産出した“動物とも植物とも分からない所属不明の生物”として古生物学者の故鹿間時夫博士の名にちなんで1968(昭43)年に初めて記載・命名された化石である。その形態がはっきりしなかったこともあり、1983(昭58)年になり古生代ペルム紀に生息した全長1m近くにも達する巨大な二枚貝化石として正式に認知された。この化石が旧根尾村下大須において美濃帯堆積岩類石灰岩中に幅約40m、高さ約80mにわたり岩板一面に含まれている状態で露出しており、それが指定されている。岐阜市司町の複合施設「メディアコスモス」の隣にある旧岐阜総合庁舎は1924(大13)年に完成した県内最古の鉄筋建築物であり、大量の石材が使われている。その南側部分だけが現在も保存され、とりわけ玄関の壁面、階段などに金生山から産出した大理石が使われ、それらの中にシカマイアがみられる。ただし、現在は安全性確保のためそこへは立ち入り禁止となっており見学できない。
本巣市根尾から産出したシカマイア
(撮影:鹿野勘次)
ジオ点描
   シカマイアは史上最大の二枚貝と言われるほど大型であるために母岩からの分離が難しく、保存状態が悪く、長らくその全体像がよくわからなかった。しかし、最近になって特殊な機材を用いて堅硬な母岩から削り出した保存状態の良い標本が多数得られ、サーフボードのような特異な形状とその産状から、硫化物を取り込む化学合成細菌を共生させて貝殻を成長させることで大型化した可能性が指摘されている。
大垣市金生山の赤坂石灰岩から産出したシカマイアのレプリカ(非常に珍しい完全体標本で、実物は国立科学博物館にある)
(提供:小野輝雄氏、撮影:棚瀬充史)
 
文 献 松岡敬二・大野照文・川上紳一・近藤洋介(2005)シカマイア復元模型.豊橋市自然史博物館研究報告,15号,35-38頁.
福井県立恐竜博物館(2020)日本で発見された謎の化石-シカマイア-,恐竜博物館ニュース,60号,6-7頁.
美濃帯堆積岩類
美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。 超丹波帯は、近畿地方において丹波帯(中部地方の美濃帯に相当)とその北側にある舞鶴帯と呼ばれる構造帯との間に存在し、丹波帯が中生代ジュラ紀に付加作用を受けて形成された付加体堆積物で構成されているのに対して、おもに古生代ペルム紀に付加作用を受けて形成された付加体堆積物で構成されている地質帯である。中部地方においては、美濃帯の北縁部で福井県の南条地域と岐阜県の高山市丹生川町地域で分布が確認されているだけである。
石灰岩
美濃帯堆積岩類の中には、金生山の赤坂石灰岩、舟伏山地域の舟伏山石灰岩、石山地域の石山石灰岩などと呼ばれる比較的大きな石灰岩の岩体が分布しており、石灰石資源として採掘されていたり、場所によっては鍾乳洞地帯を形成している。古生代のペルム紀に形成された緑色岩(玄武岩質火山岩類)からなる海山を覆うサンゴ礁を構成していた石灰質生物の遺骸が集積して形成されたものであり、一般に緑色岩と密接にともなって美濃帯堆積岩類の中では最も古い時期に形成された岩石である。
金生山
伊吹山地の南東端にあり、美濃帯堆積岩類の石灰岩で構成されている標高217mの山である。この石灰岩は古生代ペルム紀に低緯度地方の火山島の上にできたサンゴ礁周辺の環境を表わしていると考えられている。その中からおもに巻貝や二枚貝、ウミユリ、サンゴ、フズリナ、石灰藻などの化石が数多く産出することで知られており、「日本の古生物学発祥の地」と呼ばれることがある。ここから産出した化石は南麓にある金生山化石館に多数展示されている。日本有数の石灰石の産出地であり、平野に近いという立地条件もあり、古くから石灰石や大理石の採掘が盛んに行われ、現在も複数の露天掘り鉱山が稼働している。なお、山の名称は「かなぶやま」と呼ぶのが正しいとされている。


地質年代